赤ちゃんの頭の変形が気になるなら、生後3ヶ月までに専門医をたずねたい。原因となる“向き癖”の改善や、注目の「ヘルメット療法」を選択するなら早期ほど効果がのぞめる。

院長 高松 亜子
たかまつ・あこ/久留米大学医学部卒。医学博士。慶應義塾大学病院、埼玉医科大学総合医療センター、国立研究開発法人国立成育医療研究センター等の勤務を経て2019年より現職。㈳日本専門医機構認定形成外科専門医。

寝ているときの向き癖が赤ちゃんの頭の形を左右

「赤ちゃんの頭の形」に子育て世代の関心が高まっている。俗にいうぜっぺき頭や、左右の歪みなどを気にする保護者が増えているのだ。

 医学用語では、頭を上から見て頭の幅に対し前後が短いケースを「短頭症」と称し、後頭部が平たいぜっぺき頭はその一つだ。頭の片方が扁平で、左右非対称であれば「変形性斜頭症」に分類される。

イラスト:赤ちゃんのあたまのかたちクリニック 梅田青奈 ※イラスト転用禁止
イラスト:赤ちゃんのあたまのかたちクリニック 梅田青奈 ※イラスト転用禁止

 これら頭の変形の一番の原因は“向き癖”である。

 赤ちゃんを寝かせる時うつぶせか、あおむけかは主に文化圏によるが、1992年に米国小児科学会が「うつぶせ寝は乳幼児突然死症候群の原因となる」と発表してから、あおむけ寝が世界標準となった。

 成長著しい赤ちゃんの頭蓋骨は7つのパーツに分かれ、隙間もあってまだ柔らかい。あおむけ寝で向き癖が強いと、特定の方向ばかりに頭の荷重がかかり、その面が平たくなってしまうのである。

「その結果、米国では最大40%の乳児に頭の変形が見られるようになり、問題化。調査と治療の研究が始まり『ヘルメット療法』などが開発されました。日本では2011年から国立の小児中核病院で臨床研究を開始。国内における頭蓋変形治療のけん引役を果たしてきました」と語るのは、『赤ちゃんのあたまのかたちクリニック』院長の高松亜子医師だ。当時、形成外科医として研究の中枢に参画。赤ちゃんの頭の形に悩む声と向き合ってきた。

「頭の変形で医学上の問題が生じることはありません。知能や運動能力が遅れるのではないか、歯並び・嚙み合わせに影響しないかと心配する方がいますが、因果関係はなく、あくまで整容面の問題です」(高松医師、以下同)

 ただ変形が重度だと、斜頭では顔も左右非対称となり耳や目、頰骨の位置や形に違いがでやすい。短頭と共に帽子が脱げやすい、髪型が制約されるなどの不満につながり、長じてコンプレックスとなる例がある。

山口和章義肢装具士。赤ちゃんの頭蓋形成には20年以上のキャリアをもつ。
山口和章義肢装具士。赤ちゃんの頭蓋形成には20年以上のキャリアをもつ。

「赤ちゃんの生育背景や、保護者の育児不安に網羅的に寄り添う、丁寧な医療を目指して2019年に独立。当クリニックを開きました」

 頭の変形には、稀に厄介な疾患が隠れていることがある。その代表が「頭蓋骨縫合早期癒合症」だ。2歳ごろまでにゆっくり癒合する骨のパーツが、出生後すぐからくっつき始める。頭蓋内圧が高まって変形が生じるほか、脳神経麻痺、眼球突出、外斜視、咬合不全などの機能障害を起こすことがある。

「超音波やレントゲン検査で診断が確定したら、開頭手術で接合部位を広げなければなりません。当院では小児中核病院と連携。専門医療との橋渡しも役目の一つです。近年は頭の形に注目が集まり、早期発見・早期治療につながっています」

変形のレベルに応じヘルメット療法も選択可能

 斜頭、短頭とも重症度の基準があり、医療機関では専用の計測器や3Dスキャナーなどを用いて診断する。保護者には変形のレベルは判断できないので、気になる場合は生後3ヵ月までに一度は専門の医療機関を受診した方がよい。

「お誕生日頃には頭の形の原型ができ上がってしまいます。治療が必要な場合、6ヵ月以降に開始するとゴールに間に合わず、なかなか満足いく形に整いません」

 軽度なら、同クリニックでは経過を見守る自然治癒コースがある。早期に生活習慣の注意で向き癖を改善し、変形を目立たなくすることは可能だ。抱っこやベッド、ベビーカーで寝かせる時はできるだけ左右均等に。興味を引く玩具類は特定の位置に置かないよう心掛けたい。

「1日30分ほど腹ばいで遊ばせる『タミータイム』も有効。首や背中の筋肉が丈夫になります。窒息事故を防ぐため、必ず保護者が付き添い、目を離さないでください」

神経発達外来を担う橋本圭司医師、杉山智子医師(両名ともに日本専門医機構認定リハビリテーション科専門医)。乳幼児の運動能力の発達は個人差が大きいだけに、つまずきがあっても保護者は見逃しがち。早期にスクリーニングし、必要であれば適切な支援を心掛けたい。
神経発達外来を担う橋本圭司医師、杉山智子医師(両名ともに日本専門医機構認定リハビリテーション科専門医)。乳幼児の運動能力の発達は個人差が大きいだけに、つまずきがあっても保護者は見逃しがち。早期にスクリーニングし、必要であれば適切な支援を心掛けたい。

 中等症~重症のケースで検討されるのが、医療用ヘルメットを用いる「頭蓋形状誘導療法」だ。ヘルメット内部で平坦になった面に空間を作り除圧。それ以外の頭部はすっぽり覆うと、次第に平坦部分が丸みをおびていき、全体がキレイな形に整う。1日23時間、半年ほどかぶり続ける必要がある。

「症状に応じて選べるよう、当クリニックはヘルメットタイプを4種類用意。アメリカミシガン大学が開発した『ミシガン頭蓋矯正ヘルメット』と、日本で技師装具士が参画・製品化する『プロモメット』、日本製で新規参入の『リモベビー』で、中等症ならバンドタイプの『ベビーバンド』が向く赤ちゃんもいます」

 いずれも個々のデータに基づくオーダーメード。成長段階に応じて受診・調整していくが、同院では専任の技師装具士が常駐し、院内の工房で加工。細部まで丁寧に作り込めるので、より高い効果が見込める。

赤ちゃん一人ひとりの頭を3Dスキャナーなどで丁寧に計測し、オーダーメードで発注。成長に合わせ調整でき、通気性にも配慮。
赤ちゃん一人ひとりの頭を3Dスキャナーなどで丁寧に計測し、オーダーメードで発注。成長に合わせ調整でき、通気性にも配慮。
院内に設けられた防音完備の工作室。義肢装具士が一点一点フィッティングを調整する。
院内に設けられた防音完備の工作室。義肢装具士が一点一点フィッティングを調整する。

運動の発達を専門医と理学療法士がサポート

 頭の形を左右する向き癖の強い赤ちゃんは、総じておっとりタイプが多い。首振りや寝返りの頻度が少なく左右どちらかに偏りがち。うつぶせが苦手で、ハイハイ、お座り、立っちの開始も遅い傾向がある。

「2歳には運動の発達が平均に追い付きますから、多くは心配ありません。ただ2ヵ月頃からの運動の積極的な発達支援の実施が、向き癖改善やヘルメット療法により効果的に作用するという論文が、米国を始めとする複数の国々で報告されています。当院では理学療法士が担当するセミナーや、リハビリテーション専門医が診断する神経発達外来を開始。運動生理学に基づくサポートで、赤ゃんに望ましい体の動かし方を体感してもらいます」

理学療法士の井上彩氏が遊ばせながらハイハイをサポート。運動能力全般の発達を見守る。井上氏は高松医師と国立の小児病院で共に働き、乳幼児支援の経験が豊富。
理学療法士の井上彩氏が遊ばせながらハイハイをサポート。運動能力全般の発達を見守る。井上氏は高松医師と国立の小児病院で共に働き、乳幼児支援の経験が豊富。

 体のバランスを取るのが苦手で、転びやすい赤ちゃんには、姿勢や歩行を安定させる足底装具を、技師装具士が個々に合わせて作成してくれる。頭の形にかかわりなく、運動の発達に不安を感じている方は、一度訪ねてみてはいかがだろう。

赤ちゃんの足形を取り、技師装具士の清野泰輝氏が靴の中に敷くソール=足底装具を手作りする。扁平足など足裏の異常や、姿勢・歩行を矯正する効果がのぞめる。
赤ちゃんの足形を取り、技師装具士の清野泰輝氏が靴の中に敷くソール=足底装具を手作りする。扁平足など足裏の異常や、姿勢・歩行を矯正する効果がのぞめる。

 なお赤ちゃんのあたまのかたち外来も、神経発達外来も、基本的に自由診療。疾患の疑いがあれば、健康保険適用となるケースがある。

◆Column 発達支援の3つのコース

①赤ちゃんのミニ発達セミナー
理学療法士がスライドなどを使いながら向き癖、うつぶせ、寝返りの定型発達について解説。基礎知識の醸成に役立つ。

②理学療法士による発達支援
リハビリテーション専門医による診断の下、理学療法士が発達のつまずきや心配ごとをケア。30分初回お試し、60分×1回、60分×4回の3種類がある。

③神経発達外来
リハビリテーション専門医の診断の下、理学療法士も参画し継続的に必要な発達支援を行う。

 ※本コンテンツに記載されている会社名、サービス名、商品名は、各社の商標または登録商標です。

INFORMATION

赤ちゃんのあたまのかたちクリニック
東京都港区赤坂4-7-15 赤坂丹後ビル1階、2階
TEL 03-6230-9972
https://atamanokatachi.com/

この記事の掲載号

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