病気の予防や健康増進を目的とする医学を予防医学、そのための医療行為を予防医療と呼ぶ。症状が出る前に発見し、早期治療に結びつける検診・人間ドックは予防医療の代表格だ。先進的な高度医療機器と快適なアメニティを備え、質の高い予防医療を提供する国際医療福祉大学成田病院で予防医学センター長を務める竹本稔医師に話を聞いた。
竹本 稔(たけもと・みのる)
国際医療福祉大学成田病院 予防医学センター長
富山医科薬科大学(現富山大学)卒。医学博士。千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学講座准教授、スウェーデン国立カロリンスカ医科学研究所教員等を経て、2017年に国際医療福祉大学医学部主任教授、2020年の国際医療福祉大学成田病院開院より糖尿病・代謝・内分泌内科部長、2022年より現職(兼)。
一般の健康診断にはない人間ドックのメリットとは
人間ドックは基本的に費用が自己負担であるため(費用の一部を加入する健康保険等が補助する制度はある)、なかなか一歩を踏み出せない人も少なくないのが実情だ。しかし、人間ドックには一般的な健康診断にない多くのメリットがある。
まず検査項目が多く、豊富なオプションの中から自分に必要な検査を選ぶことができる。そのため、健康診断では発見できない病気を早期に発見できる可能性が高い。次に、検査結果の説明を医師から直接聞き、治療や予防についてアドバイスを受けられる。さらに、検査内容(メニュー)によっては、病気の早期発見だけでなく、将来的な発症リスクが分かることなどが挙げられる。
がん検診も、市区町村などが行う「対策型検診」と、人間ドックなどで受けられる「任意型検診」には大きな違いがある。
「対策型の目的は、対象となる“集団”のリスクを下げることですが、任意型は“個人”のリスクを下げることが目的です。どのがんのリスクが高いかは、家族歴や生活背景などによって異なり、自分に適したがん検診を受けられるのが任意型です」
と、国際医療福祉大学成田病院・予防医学センター長の竹本稔医師は説明する。
対策型の対象は、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つだが、任意型では、超音波検査、MRI検査、 PET-CT検査、血液の腫瘍マーカー検査などにより、幅広いがんについて調べることができる。
軽度認知障害のリスクを血液で調べるオプションも
人間ドックのオプションは多種多様だが、同センターが提供するものの中で、申し込みがとくに増えているのは、軽度認知障害(MCI)のリスクを調べる「MCIスクリーニング検査プラス」だという。
「MCIとは、認知症と診断される一歩手前の状態です。放置すれば認知症に進行しますが、適切に予防することで健常な状態に戻る可能性があります。『MCIスクリーニング検査プラス』では、血液検査で認知症に関連する物質を調べます。認知症は発症の20~30年前、つまり中年期からの生活習慣が大きく影響するため、現在の状態を知って認知症の予防につなげられるよう40歳以上の人にお勧めしています」(竹本医師、以下同)
脳神経内科の専門医が中心となり、MCIのリスク評価にとどまらず、最新の薬物治療などに迅速につなげていることも特徴だ。
腸内の健康状態を調べる「腸内フローラ検査」も関心が高い。自宅で採便し、専用の容器に入れて郵送するだけの簡単な検査だ。腸内環境を5タイプに分類し、体調を改善する食生活を知ることができる他、高血圧、脂質異常症など4つの生活習慣病と、炎症性腸疾患など6つの疾患との関連度も分かる。結果に基づく食生活改善のアドバイスを受けられ、無料の電話相談窓口も用意されている。
近い将来には、遺伝情報(ゲノム)を活用したオプション検査も行えるよう準備を進めていると竹本医師は話す。
「遺伝子が深く関わる疾患の早期発見や予防に取り組みたいと考えています。遺伝子検査(ゲノム検査)は高額ですが一生に一回で済み、その人に必要な検査を効率よく受けることが可能になります」
個別化された人間ドックは費用対効果が高く、メリットは大きい。
「未病」の段階で対処することが重要
予防医療は、生活習慣や予防接種などで病気を防ぐ一次予防、健康診断や検診、人間ドックで病気の症状が出る前に早期発見する二次予防、病気の再発を防ぐ三次予防に大きく分けられる。どれも大切だが、竹本医師は、発病には至っていないものの健康な状態から離れつつある「未病」の段階で対処することが重要だと強調する。そのためには、食事、睡眠、運動の習慣を見直し、ストレスの低減に取り組むことが必要だ。
同院には健康増進センターが併設され、プール、ジム、サウナ、ヨガルーム、大浴場、リラクゼーションスペースを完備。医師や健康運動指導士などが、医学的な視点から健康づくりをサポートする。
「人生100年時代を迎える中、健康寿命を伸ばすことが課題ですが、健康志向が高い人とそうでない人の二極化が進んでいると感じます。社会全体で健康志向の底上げを図る必要があり、私たちも千葉県や成田市、医師会と連携してさまざまな啓発活動を展開しています。1~2か月に1回、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・リハビリスタッフによる糖尿病教室や、各診療科の医師による市民公開講座を開催、多いときは300人を超える方々にお集まりいただいています」
竹本医師は、病気に対する社会の偏見をなくすことも大切だと話す。糖尿病も実は遺伝的な要因が強く、ゲノム検査が普及すればより効果的な予防が可能になるだろう。
「健康診断でも人間ドックでも、年一回は自分の体にしっかりと向き合う機会を持つことが大切です。病気の予防のために積極的な受診を検討することが、健康寿命をのばし、命を救うことにつながります」
成田空港に近い同院は「世界基準のハブ病院」を目指しており、訪日外国人の受診者も増加中だ。人間ドックの質の高さは、国内受診者のリピート率が約80%という数字にも表れている。
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