お好み焼の味を決めるのはソース。全国のスーパーのソース売り場に、“実家の冷蔵庫”に、人気料理人のレシピ撮影時に、しょっちゅう目にする「オタフク」マークの容器に詰まったとろりと上品なソースには、じつは“あの果物”が使われている――。

 

広島発のブランドながら、関西では8割と圧倒的なシェアを誇る「オタフクソース」本社にて、「いますぐお好み焼を食べたい」と思わせるソースのおいしさの秘密を、家庭用商品企画課の佐藤詩乃さんに伺った。

中近東やアメリカが産地の “スーパーフード”

――先ほど広島駅のお土産コーナーで、いろんな種類のお好みソースが並んでいるのをお見かけしました。オレンジ色のパッケージでおなじみのオタフクお好みソースのほかにも、広島限定のお好みソースとか、呉海自カレーソースとか。そのなかに、「デーツ〈なつめやしの実〉」という、ソースではない商品が置かれていて、気になりました。

佐藤詩乃さん(以下、佐藤) ありがとうございます。じつはデーツは、オタフクお好みソースに欠かせない原材料のひとつなんです。

――なぜか私は、オタフクお好みソースの甘みの要素のひとつはデーツと知っていたのですが、まわりに聞いても誰も知らなくて……消費者としてレアなケースで恐縮です。

佐藤 知っていただいていてすごく光栄です。

お好みソースとデーツ(手前はオリジナルキャラクターの「デーツくん」)。よく見ると、ソースのパッケージにもデーツが

 デーツのほかにも玉ねぎ、にんじん、トマト、桃など、野菜果実をたっぷり使っているのがオタフクお好みソースのよさでもあるなかで、とりわけ深いコクのある甘さを演出しているのが、デーツです。

――はい。

佐藤 主に中近東やアメリカが産地のなつめやしの実で、樹上で完熟させるので、“天然のドライフルーツ”とも言われています。食物繊維が豊富で、カリウムやマグネシウムも含まれていて、やさしい甘さだけでなく、体にもとってもいいんですよ。

――デーツといえばここ数年、栄養豊富なスーパーフードとして注目されていますよね。それよりも随分前、1975年からデーツを使用されて、今年で50年目の節目ということですが、そもそもなぜお好みソースにデーツを使われるようになったのでしょうか?

佐藤 デーツに初めて出合ったのは1974年、ウスターソース発祥の地であるイギリスのウースター市だったと聞いています。ソースの製造工場を訪問したとき、建物の一角に山積みになったデーツを見つけて、「なんだこれは!」と。そこでソースの原料にデーツが使われていることを初めて知ったんです。さらに帰国後よくよく調べてみると、砂糖にはない天然のコク深い甘みを演出できること、また食物繊維やカリウム、マグネシウムが含まれていて、栄養素としても体にすごくいいものだということがわかりました。

佐藤詩乃さん

 その頃にオイルショックの影響で、砂糖の価格が高騰したそうで、「砂糖のかわりに一部デーツを使おう」となったのが、オタフクお好みソースにデーツを使い始めたきっかけです。

――砂糖が手に入りやすくなったあとも、デーツを使い続けていらっしゃるところが、興味深いです。

佐藤 オイルショックという世情の変化がきっかけではありましたが、「体にいいものを」という想いが、創業当時から社内に一貫してあります。いまとなっては、砂糖よりも(デーツのほうが)高価なものになりましたが、“デーツによるお好みソースのおいしさ”を、オタフクソースとしては大事にしていきたいと思っています。

新聞記者から一本の電話が…“お好みソース買い占め”の真実

――1991年に湾岸戦争が勃発した際には、デーツの産地が中東ということで、オタフクお好みソースの買い占めという社会現象があったとか。社内的にも危機だったのでしょうか?

佐藤 ある日、新聞記者のかたから問い合わせがあって、「中東情勢が悪化してますけど、お好みソースは大丈夫ですか?」と。当時の話にはなるのですが、日本が輸入するデーツの大半がオタフクお好みソースの原料だと、そこで初めて知ったそうです。それで、急いで商社に確認したところ、「備蓄があるので安定的に供給できます」という回答があって、ひきつづき私たちも安心してソースをつくることができた、ということはありました。

現在では、定番の「お好みソース」以外にも様々な種類が

――じつはソースの製造に影響はなかったと。

佐藤 そうです、そうです。過去の新聞や雑誌の記事で、「オタフクソースが消える」という見出しを見たことはあります。

――お米やマスクのように、ピンポイントでオタフクソースが消えるって、すごいですね。これまで、他にピンチはありましたか?

佐藤 輸入しているデーツに関しては、世界情勢に大きく左右されることはそこまではなかったんですよ。危機感はありましたけど。

――いまではコンビニに走ると、必ずオタフクお好みソースがあって助かるのですが、この全国的な認知度の高さはどこからくるのだろうと。

佐藤 デーツを使った独特の甘みと、“お好み焼”というメニューと一緒に広がっていった背景が、一番大きいと思います。単なるソースとしてだけではなく、お好み焼の栄養バランスと調理の楽しさも一緒にご提案して、ご自宅で家族そろったときに、お好み焼屋さんでつかっている本格的なプロの味が食べられますよと。

――プロの味を、家で、という順番だったのですね。

佐藤 もともとはお好み焼店さまと一緒に試行錯誤しながらつくりあげて、広島市内のお店で使っていただいていたソースなんですよ。1952年に発売して、1957年には家庭用のソースを開発して、そこから1975年に山陽新幹線が博多まで開通したり、広島(東洋)カープが初優勝したりして、広島が注目を集めて、“広島のお好み焼”が一気に全国的に広まっていったんです。

1959年頃のお好み焼店舗が再現されたスペース。「Wood Egg お好み焼館」にて

――広島の文化ごと、認知されていった感じでしょうか。佐藤さんのお名刺に「お好み焼士」とあったのも見逃せません。

佐藤 社内の資格制度なんですが、インストラクター、コーディネーター、マイスターという3つのランクがあって、それぞれ筆記試験と実技試験があります。私はもともと「お好み焼課」にいまして……。

――お好み焼課。何をする部署なんですか。

佐藤 お好み焼の普及を一番の活動目的としていて、本社の近くにある「Wood Egg お好み焼館」(お好み焼を学び、体験できる博物館)でお好み焼の先生をやったり、「OKOSTA」というお好み焼を体験できるスタジオが広島駅にあるのですが、そこでも講師をしていました。

「頭の中がデーツ(笑)」な佐藤さんオススメの食べ方は……

――ソースの原料だったデーツを、商品化されたのはなぜですか?

佐藤 せっかく輸入しているデーツの実そのものをお客さまにも食べていただきたくて、もともとEC サイトで販売していたんです。それが、健康意識の高いコアなファンの方たちが継続して食べてくださって、「体にいいものをお届けしたい」という想いから、2020年に一般のお客さま向けにも販売を始めました。

 オタフクお好みソースのよさをあらためてお伝えするにあたって、ソースの脇役だったデーツを、あえて主役にする商品があってもいいんじゃないかということで。

――デーツを普及する「デーツ部」もあったとか。

佐藤 「デーツが主役だ!」というところから進めていって、現地の農園を視察したり、デーツの新しい商品を考えたり。当時はデーツもいまほど認知されていなくて、社員の知識もばらばらだったところを、世界から情報を集めて、「オタフクのデーツ」というキーワードを固めたのが、デーツ部です。

 デーツ部自体は、ぶじに役目を終えて解散しましたが、私はその後を引き継いで、現在契約している農園を視察したり、国内での品質を安定させるために加工工場に足を運んだり、デーツのおいしい食べ方やレシピを考えて発信したり、日々デーツです。頭の中がデーツ(笑)。

――佐藤さんにとって、デーツの一番の魅力はなんですか?

佐藤 とにかくおいしいと思うんです。デーツの品種は本当にたくさんあって、黒糖っぽい甘さとか、干し柿っぽい甘さとかいろいろあるんですけれども、私たちが選び続けているマジョール種のデーツは、しっとり感と肉厚感、大粒なので食べ応えもあって、甘さもすごく上品です。

 それに加えて、食物繊維、カリウム、マグネシウムがたっぷり含まれているところ。日々の体調が気になる50代以上のかたにもよく食べていただいていて、日常的に天然の果実から栄養を摂れるということが、いいなと思っています。

――9月1日に「デーツ〈なつめやしの実〉」が「種抜きデーツ」としてリニューアルされました。なにかリクエストがあったのですか?

佐藤 食べるところを見ているうちに、種を気にせずぱくっと一口で食べられたらいいのかなと。カットしてヨーグルトに入れる方も多いようだったので、最初から種がないもののほうが、お客さまの日常的なハードルも下がるかなと考えて、種を抜くことにしました。

――つくり手の側からすると、種を抜くのは大変ですよね。

佐藤 現地の工場に視察にいったとき、種を抜く工程を見学させてもらったのですが、ひとつひとつ手作業で種をとって、品質に問題がないかも丁寧に確認されていて、これなら安心してお客さまにお届けできると思いました。

――おすすめの食べ方はありますか?

佐藤 おやつに甘いものを食べたいときにそのままつまんでもいいですし、朝食のヨーグルトに入れたり、あとはデーツボートもすごくおすすめです。

――デーツボート?

佐藤 デーツを縦半分に切って、クリームチーズをのせるだけで、お洒落なおつまみになります。ナッツを入れるとよりおいしいんですが、今日はナッツ不在でごめんなさい、よかったらどうぞ。

デーツにチーズやバターを合わせて作る「デーツボート」。生ハムやトマト、ナッツ等でアレンジすれば華やかに

――しっとりしていて、びっくりです。もっとドライな質感を想像していました。

佐藤 そうなんです。このしっとりした肉厚感が、マジョール種の特徴です。塩気と合わせるとよりおいしくて、生ハムをのせてもいいですし、アンチョビをのせてあったかメニューにしても。火を入れると、デーツがとろっと甘みを増します。

 ちなみに、濃縮デーツ果汁100%の「デーツシロップ」も発売させていただいていますが、これがより使いやすくて。

――ヨーグルトやパンケーキにかけたらおいしそうです。

佐藤 煮込み料理にも、醤油とみりんと砂糖要らずで、このシロップと料理酒だけでも、おいしく仕上がります。

――えっ、それだけで?

佐藤 この前、豚の角煮をつくりましたが、すごくおいしくできました。ポーションタイプなので、料理に使うときは“ワンプチ”で加えられて便利ですし、シンプルにバタートーストにかけていただくだけでも、あまじょっぱさのバランスがたまりません。

――あのお好みソースの奥深い味は、デーツからきていることが、実感としてよりわかった気がします。

佐藤 私はオタフクのソースで食べるお好み焼が大好きで、オタフクお好みソースの味のひとつを担っているデーツがとても大事なんだなと思いながら日々過ごしているので、それをみなさんにお届けしたい。「オタフクお好みソースのおいしい理由はこれなんだよ」というところも、広めていけたらいいなと、日々試行錯誤しながらやらせてもらっています。

――お好み焼以外ではどういうふうに使われますか?

佐藤 広島人なので、基本的になんにでも使うんですよ。カレーにかけてもいいですし、フライものだったらぜんぶ。お気に入りはハヤシライス、ビーフシチュー、あとはバターソースもち。おもちを焼いて、ソースとバターをあえるだけ。

 デーツのレシピもたくさん開発していて、なかでもキャロットケーキは、デーツとお好みソースの共存レシピとして本当においしくておすすめです! ぜひやってみてください。

デーツについてもっと知る

9月1日新発売!「デーツなつめやしの実 種抜き」

■容量:68g袋/140g袋/705g袋

■品種「マジョール種」: 原産地の中近東などでは贈答品としても扱われている「マジョール」を使用。肉厚で大きく、黒糖や干し柿のような上品な甘みがあり、ひと粒で満足できる食べ応えです。

■品質: 樹上で完熟したデーツから、グレードの高い実だけを選別。「マジョール」はやわらかいため、手作業で種を抜き、実を確認しながら加工します。さらに国内で丁寧に検品する、安心安全な品質で提供します。

「さらに高品質なデーツを、もっと日常に 」

 デーツ市場は近年、健康志向の高まりを背景に伸長傾向にあり、着実に市場が拡大しています。

 オタフクソースの販売するデーツの品種は、大粒で肉厚が特徴の「マジョール」で、ひと粒をそのまま食べられる方が多くいらっしゃいます。一方で発売以降、デーツを切ってヨーグルトなどに入れて召し上がるという声も寄せられました。このたび、もっと日常的に取り入れやすくなるよう、食べやすさを考慮して種を抜いたデーツに刷新。そのままでも、切っても、さまざまな食べ方で楽しみやすくなりました。

 お客様から評価いただいているしっとりとした食感や甘さなどのおいしさは変えることなく、安心してお召し上がりいただける安定した品質のデーツをお届けします。