幻の魚「イトウ」釣りで知られる北海道朱鞠内湖で起きた痛ましい事件は、ヒグマの恐るべき捕食行動と残虐性を改めて世に知らしめることとなった。2023年5月、ベテラン釣り人の男性がヒグマに襲われ、その遺体はあまりにも激しい損傷を受けていた。宝島社の新刊『アーバン熊の脅威』からのダイジェストより、ヒグマの危険な習性について考察する。

写真はイメージ ©getty

「性別すらわからない」ほどの激しい損傷

 2023年5月14日早朝、50代の男性がイトウ釣りのために朱鞠内湖北東の水辺を訪れた。彼はこの場所をよく知るベテラン釣り人だったが、その日、渡し船の船員が迎えに行った午前9時頃には姿が消え、かわりに胴長靴をくわえたヒグマが目撃された。

 捜索の結果、現場には大量の血痕が残され、周辺で発見された人間の頭部は顔面の損傷が非常に激しく、「男女の区別すらつかない状態」だったという。その後、現場から50メートルほど離れた場所で「頭のない人間の胴体」も発見された。注目すべきは、胴体が草木で覆われていたことで、これはヒグマが「保存食」として隠す習性によるものと考えられている。

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 射殺されたオスのヒグマ(体長約1.5メートル)の胃からは、約9キロもの人間の肉片や骨片が発見された。DNA検査により、これらが被害者のものであることが確認され、男性がヒグマに襲われて死亡したと断定された。

 この事件だけではない。2021年7月の北海道福島町での事件でも、ヒグマに襲われた70代女性の遺体は「上半身がなく、性別すらわからないほど」損傷が激しかったという。

 ヒグマが遺体をバラバラに引き裂く理由は、その捕食習性にある。ヒグマは食べ物を隠す習性があり、「手頃なサイズにするために」遺体を引き裂くと考えられている。また、人間を攻撃する際には顔面を集中的に狙うことが多いが、捕食対象と認識した場合はそれだけにとどまらず、遺体を引き裂くことも珍しくないのだ。

 朱鞠内湖の事件は、ヒグマの残虐性と驚異的なパワーを改めて世間に知らしめる結果となった。ヒグマとの遭遇を避けるための正しい知識と対策が、私たち人間にとって不可欠であることを強く印象づける痛ましい出来事といえるだろう。

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