「専門用語で〝通トン〟(1年間に線路を通る列車の累積重量=通過するトン数)というのですが、線路にかかる負荷はこの通トンで表します。中央線なんて、日本でトップクラスに通トンが大きいかもしれません。だから、そういった線区は状態が悪くなるのも早い。モニタリングデータからある程度予測はできて、半年後くらいまでには工事しておきたい、できるだけ早くやっておこう、とかを判断して工事の計画を組んでいます」(名波さん)

 真夜中、わずか3時間足らずのうちに終えなければならない作業。当然作業員への負担も小さくない。

「夜中の仕事ですし、なかなか若い人が入ってこなくて、ベテランの方に頼っている側面はあります。一方でベテランですと、体力面で続けられず、ということもあるので……。多くの同業他社さんも作業員の確保には頭を悩ませているのではないでしょうか」(津吉さん)

熟練の溶接技術者によりレールとレールを溶接して1本のレールにつなげている。 写真提供 JR東日本

 津吉さんは「そのような中でも安全に電車を走らせるために必要な作業ができるように、人員を確保していきたい」と打ち明ける。

「もちろん私たちの仕事も不規則ですから、厳しいところは正直あります。でも、列車を安全に走らせるためには、やらないといけないことですから」(津吉さん)

「絶対に安定輸送を」作業員たちが一層奮闘するとき

 休むことなく走り続ける鉄道だが、実は季節ごとの大型連休は特に気を張る時期で、連休前には入念に点検を行っているという。5月の大型連休、夏のお盆、年末年始。こうした時期には、行楽や帰省で利用する多くのお客に安心して、そして快適に列車に乗って貰うため、そして日夜働く作業員たちにも休んで貰うため。

「あとは、入学試験シーズンもそうですね。絶対に安定輸送を保ちたい。それに、少しでも揺れないように。何も気にすることなく、集中して試験に向かってもらいたいですから。安全・安定はもちろんですが、その上で保線作業によって少しでも乗り心地をよく。プライドみたいなものですね(笑)」(名波さん)

 そんな彼らが思う、「保線の仕事の良いところ」とは。

「なんか、良くも悪くも目立ちますし、人の役に立っているなと思いますよね。山手線が止まるとニュースになる、なんてよく言われますけど、逆に言えばそれくらいの仕事をしている、と」(名波さん)

「今日、何も異常なことがなかったなっていう……その実感っていうんですかね。何もないことがいちばんであって、そのためにいろんな手配をするし、準備をする。それで、ああやっと揺れが収まったなあと思うと嬉しいですしね」(津吉さん)

 決して表に出ることはないけれど、彼らがいなければ人々の日常は守れない、誇り高き技術者。暗いうちに走り出す山手線の始発電車は、彼らが影から支えてくれている日常のはじまりなのだ。

 そして、そんな日常がいつまでも続くように——。それを願うばかりである。

撮影 山元茂樹/文藝春秋

撮影 山本茂樹/文藝春秋

取材協力 JR東日本