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校門圧死事件から30年――理不尽すぎる「ブラック校則」の闇が深くなっている

2018/10/08
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「校則の異常性は減ってきた」のウソ

 1990年という30年近く前の古い事案を取り上げたのは、それが死亡という重大な結果に至ったからだけではない。じつは、「校則の異常性というのは、今日ではずいぶんと減ってきた」と、私を含め多くの教育関係者が思ってきたからだ。

 ところが冒頭で述べたとおり、2017年に入ってから、黒髪の強要が話題となった。また朝日新聞社の調査からも、東京都立高校の約6割で、髪の毛が茶色だったり縮れていたりする生徒に対して、それが生まれつきのものであることを示す「地毛証明書」を提出させていることが明らかとなった。

「下着の色が決められている」今のこどもたち

 同じく朝日新聞社が、日本高校野球連盟と共同で実施した調査によると、連盟に加盟している高校のうち髪型を「丸刈り」としているのは、2003年が46.4%であったのに対し、2018年には76.8%にまで増加している【図1】。

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 また荻上チキ氏らが2018年に実施したウェブ調査では、「下着の色が決められている」「整髪料を使ってはいけない」など多くの質問項目で、若年世代のほうが経験ありとの回答を示していた(詳細な調査結果は『ブラック校則』に収められている)。

 このように合理性を欠くような校則は、けっして消滅していない。それどころか、むしろ強化あるいは拡散しているようである。校則の問題は、実態としても議論としても、もう下火になっていると思っていただけに、私はかなり驚かされたのであった。

“理不尽でも”校則を守るのは当然?

 興味深いデータを一つ紹介したい。

 福岡県の高校2年生を対象に、2001年、2007年、2013年と3時点にわたって実施された調査の結果である。「学校で集団生活をおくる以上、校則を守るのは当然のことだ」という質問への回答は、3時点で大きく変化している【図2】。

 

 全体(男子・女子)の傾向として、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」という肯定的な傾向が、2013年では87.9%に達している。大多数の生徒が校則を守ることは当然と考えている。しかもそれは2001年の68.3%から、約20%もの大幅な増加である。さらには「どちらかといえばそう思う」はほとんど変化がなく、「そう思う」というより積極的な回答が増えている。

 この結果を踏まえて今日の中高生における校則への感受性を想像すると、複雑な思いになる。なぜなら、非合理または理不尽な校則が今日も通用している一方で、生徒らはそれらの校則を守るべきと考えている可能性が見えてくるからである。

今こそ「ブラック校則問題」を考えたい

 校則をはじめルールを守ることは、もちろん重要だ。ただそれは、無批判に従えばよいということではない。校門圧死事件がそうであるように、当のルールが当たり前のものになると、もはやその善悪が問われなくなってしまう。

 私が尊敬する年輩の弁護士に、「校則を守るのは当然のことだ」という高校生の割合が増えているという話をした。するとその弁護士はこう答えた――「それは,マズイねぇ」。

 一つひとつのルールについて、つねに批判的に検討しながら受容していくことこそが、何よりも大事なことである。

ブラック校則 理不尽な苦しみの現実

荻上 チキ・内田良(編著)

東洋館出版社
2018年8月4日 発売

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校門圧死事件から30年――理不尽すぎる「ブラック校則」の闇が深くなっている

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