カープ戦の実況を担当するようになって19年、大きなミスもあれば小さな言い間違いもしてきた。いまだに難しいのが、ピッチャーの球種の判別である。特にラジオ中継では、一球一球の球種を可能な限り伝えたいと思っている。近年は、カットボールにツーシーム、さらにはワンシームも登場し、困難さは増すばかりである。
「中継のVTRを見ていて、球種の言い間違いですか? ありますね」と爽やかな笑顔で語るのが、エースの大瀬良大地だ。しかし、ここからのフォローに癒される。「フォークと縦のカットボールとかの間違いが多いですかね。でも、実況でも間違うということは、打者も多少なりとも判別が難しいということでしょう」。
前向きな思考にエースの風格を感じるが、大瀬良には、間違えて欲しくない球種もあるという。「スライダーとカットボールの間違いですね。カットは自信のある球で、スライダーはそんなに自信が大きいわけではありません。なので、ここを混同されてしまうと、ちょっと自信を失ってしまいますね」。
少し寂しそうな表情を見ると、この2球種だけは、最大限の注意を払って見極めようと心に誓うのであった。
さらなる強敵 10球種を操る九里が語る“判別のヒント”
カープにはさらなる強敵がいる。リリーフに先発にフル回転、無尽蔵のスタミナで7月は月間防御率2.81、8月も勢いは衰え知らずの九里亜蓮である。縦横、緩急、一説によると10球種を操るとも報道されている。不敵な笑みが頼もしい九里にも、正直な意見を求めてみた。「坂上さんの中継、見ましたよ。確かに、球種の間違いはありますね」。ならばと、判別のヒントを乞うてみた。「ツーシームは左打者に逃げ落ちます、フォークは落ちるときに少しスライダー気味のことがあり、チェンジアップは球速が違いますよね……」。その説明を頭に叩き込んで実況することは困難だが、こんなにも実直に説明を与えてくれる彼の人柄の良さは何としても伝えたいと思う。
そもそもは、こんなに球種の多い投手ではなかった。亜細亜大学では通算19勝、4年の秋季リーグではチームを33年ぶりの優勝に導き、MVP・最優秀投手賞・ベストナインの3冠に輝いた。その頃は、ストレートを中心にスライダー、ツーシーム、チェンジアップという投球スタイルだった。しかし、プロで打者に対峙しながら進化する中で、次々と新球をマスターしていった。
マウンドでは気迫満点だが、普段は冗談も忘れないナイスガイは決してフォローも忘れない。「誰しも間違えることがありますよ。フォークとチェンジアップの間違い、シュートとツーシームの間違い、ほぼほぼ全部が間違いの中継だってありますから。逆に、打者が戸惑ってくれればいいです。相手ベンチで、シュート? いや、ツーシーム? そんな風になっていたらラッキーですね」。