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【香港蹂躙で馬脚を露わした中国】2020年に米英仏独が「包囲網」を築いた歴史的意味

アフター・コロナの中国論 #1

2020/07/04
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 ところが、今回はオーストラリアもこの強圧に屈することなく、逆に対中強硬路線へと舵を切りました。これまで同様に対中宥和の可能性も捨て切れず逡巡してきたインドに接近することにしたのです。その結果、豪印両国は手を結んで、緊密な軍事協力関係を約束することにつながった。「2+2」と呼ばれる国防大臣と外務大臣の4者協議も正式に軌道に乗せることにしました。

 こうして、いまや日米豪印が、中国を包囲しつつあります。この流れは、6月のASEAN首脳会議(オンライン)でも見られました。議長国のベトナムのフック首相は「全世界が新型コロナウイルス対策で余力を失っている中、無責任で国際法に違反する行為が行われている」として、南シナ海での中国の行動を強く批判しました。そしてこれまで対中宥和的だったインドネシアも同様の立場から、中国の主張する「九段線」の不当を国連に訴えました。

“国際秩序の風見鶏”スイスも離れた

 そして中国の周辺国のみならず、これまで友好的だった遠くに位置する国々からも、中国を警戒する声が上がり始めました。

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 たとえばイスラエル。アメリカの中東における最も重要な同盟国ですから、中国と友好的というと意外かもしれませんが、イスラエルとしては「多少のことがあってもアメリカは自分たちとは絶対に手が切れない」と高をくくり、サイバーセキュリティーをはじめとしたIT分野での技術や機器を中国に売り込んで、莫大な利益を得ていました。

 そのイスラエルでも、今年になって地中海沿岸のイスラエルの港に対する中国の開発権認可を再考するべきだという動きが加速しています。

 現地の保守系有力紙も「中国にあまりに接近しすぎることは危うい」とネタニヤフ政権批判をはじめました。新型コロナ禍への中国の対応に加え、軍事分野にも及ぶイスラエルの高度な科学技術が、中国を経由してイスラエルの天敵であるイランに流れる可能性も現実味を帯びたことも背景にあります。

京都大学名誉教授の中西輝政氏 ©︎文藝春秋

 最後にもう一国、注目すべきはスイスです。EU加盟国でないスイスは、実はヨーロッパで最も中国との距離が近い国。クレディ・スイスというスイスを代表する金融機関も、日本円で20兆円から30兆円の国債など、中国の様々な金融・資本市場に投資を行ってきました。

 そのスイスも、次第に中国から離れはじめています。「首尾一貫した対中戦略がなければ、スイスは中国政府から自国の利益と価値観を守れない」と、議会からも対中戦略の見直しを求める声が上がってきています。スイスのすぐ南側にあるイタリアが、ヨーロッパでの新型コロナ被害の中心地になったことも、少なからず影響があったかもしれません。