文春オンライン

「結果だけがすべてではない」と言い切る男 ヤクルト・荒木貴裕がヒーローになる時

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/10/12
note

焦るな、腐るな、負けるな荒木!

 今シーズンの荒木は、決して好調とは言い難い。開幕以来、なかなかヒットが出なかった。現在では「代打の切り札」という立場ではない。試合中盤の代打か、終盤の守備固めか、相変わらず起用法は一定していないけれども、その存在感は数年前よりは少しずつ薄れていってしまっているように感じられる。

 しかし、プロ11年目の33歳。まだまだ老け込む年ではない。チームが低迷している現状、残り試合を考えれば、来シーズン以降に向けて積極的に若手の起用が増えていくことだろう。それでも、まだまだ荒木の存在が必要なときが、絶対にやってくる。それは、今季の残り試合はもちろん、来季以降も絶対にだ。必ずだ。

 先日のバスターからのホームランを放ったとき。まるで、歓喜の感情を押し殺すかのように荒木は淡々とベースを一周し、少しだけはにかんだ様子でベンチにいるナインからの祝福を受けた。その姿は、「オレはまだまだこんなもんじゃない」という、寡黙な男の意地と自負が垣間見えたように、僕には思えた。

ADVERTISEMENT

 今から3年前の2017年5月14日、松山・坊っちゃんスタジアムで行われた対中日ドラゴンズ戦において、荒木は人生初となるサヨナラ満塁ホームランを放った。この試合も、僕はスタンドから観戦していた。このとき、荒木は打った瞬間に全身を使って万歳をし、ホームインの瞬間も、待ち受けるチームメイトたちに向かって満面の笑みを浮かべていたのが、遠目で見ていてもハッキリとわかった。

 あのときの、はじけるような荒木の笑顔が見たい。忸怩たる思いを抱えつつ、それでもチームのために、己の役割に徹する男が、満を持して爆発させる歓喜の表情が見たい。もう一度言う。まだまだ老け込む年じゃない。寡黙な男の円熟味は、これからさらに熟成されていくのだ。

 焦るな、腐るな、負けるな。お楽しみは、これからだ。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/40578 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

「結果だけがすべてではない」と言い切る男 ヤクルト・荒木貴裕がヒーローになる時

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー
文春野球学校開講!