上田剛史が教えてくれた洋楽かぶれをも唸らせるあの曲

 突然だが、読者の皆さんは「爆音映画祭」をご存じだろうか? これは音楽にこだわりのある映画などを中心に、通常の音響セッティングではなく、音楽ライブ用のセッティングをフルに使って、大音響で鑑賞しようという趣旨の特集上映である。毎年、全国各地で行われていて、筆者もこれまで新宿、お台場などで鑑賞したことがあるが、先月は東京・昭島での開催に足を運んできた。

 11日間で18作品が上映された中から、選んだのは米国のロック歌手、ブルース・スプリングスティーンの楽曲をモチーフにした青春映画『カセットテープ・ダイアリーズ』と、日本のロックバンド、イエモンことTHE YELLOW MONKEYのドキュメンタリーである『パンドラ ザ・イエロー・モンキー PUNCH DRUNKARD TOUR THE MOVIE』。

 正直に言って自分がイエモンの映画を見に行くとは、数年前には想像もできなかった。子供の頃は普通に歌謡曲などを聞いていたと思うが、いつしか「洋楽かぶれ」となり、気がつけば日本のバンドやアーティストの楽曲とは疎遠になっていたからだ。

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 そんな筆者が変な色眼鏡ナシに、いわゆる邦楽にも耳を傾けるようになったのは、1つにはヤクルトの上田剛史がきっかけだった。もう7、8年前になるだろうか。当時のヤクルトでは洋楽、それも筆者の好きそうなロック系の曲を出囃子に使う選手は、抑えのトニー・バーネット(現ヤクルト編成部アドバイザー)などごく一部に過ぎなかった。

 その中でも、上田の登場曲がかなり筆者好みだったのである。それまで聴いたことのない曲で、サビの歌詞は英語。気になって本人に聞いてみると「ワンオクロックっていうバンドのアンサイズニアって曲なんですけど……」と教えてくれた。

ONE OK ROCKブームを作った? 上田剛史の登場ムービー

 ワンオクロック? あー、ONE OK ROCK! 名前には見覚えがあった。確かボーカルは、かの森進一、森昌子夫妻のご子息だったはず。

「そうです、Takaです。仲いいんですよ、僕」。聞けば上田とは同い年だという。

 それがきっかけとなってCDを聴くようになり、夏フェスではライブも体験したが、どの曲もカッコいい。たぶん登場曲として聴いていなかったら「聴かず嫌い」で終わった可能性も高いので、心の中で上田に感謝した。いや、本人に伝えたこともあったかもしれない。

 ワンオクの曲を出囃子に使ったのは、ヤクルトでは上田が走りだと思うのだが、最近はグッと増えた。一昨年、ソフトバンクから移籍してきた山田大樹が『Stand Out Fit In』、昨年、日本ハムから移籍してきた高梨裕稔は『Yes I am』(打席では『Wherever you are』)、そして今年、ドラフト2位で入団したルーキーの吉田大喜は『キミシダイ列車』……。いずれもONE OK ROCKのナンバーである。

歳内宏明の出囃子が由規の復活と重なった

 さらに、そこにもう1人加わった。昨シーズン限りで阪神を戦力外となり、四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズを経て入団した歳内宏明が、初めてヤクルトのユニフォームで神宮のマウンドに上がった9月16日のDeNA戦。バックに流れたのが、なんとワンオクの『c.h.a.o.s.m.y.t.h.』だったのだ。

 これはかつて、由規(現楽天)が2016年に故障から復活した際に、出囃子として使った曲。右肩手術後の長いリハビリの間に一度は育成選手になりながら、再び支配下登録を勝ち取って1771日ぶりに神宮に帰ってきたあの日の由規と、同じように右肩の故障に苦しみ、育成契約、戦力外通告、独立リーグでのプレーを経て、1603日ぶりにNPBの一軍マウンドに戻ってきた歳内。夕闇の中でゆったりと流れる『c.h.a.o.s.m.y.t.h.』を聴いていると、2人の姿が重なって、目頭が熱くなった。

1603日ぶりにNPBの一軍マウンドに戻ってきた歳内宏明

 あの、Mr. Childrenの『終わりなき旅』が“定番”の雄平も、今年は一時、ワンオクの『The Beginning』を登場曲にしていたことがある。7月の下旬に一度、登録抹消となり、約1カ月後に1軍に復帰した時には『終わりなき旅』に戻っていたが、もう何年もミスチル一筋(昨年は高校の同級生である宮田悟志の『RISE』も併用していたが)の雄平に“浮気”をさせるとは、まさにワンオク恐るべし!である。

 ちなみに筆者にワンオクの良さを教えてくれた上田は、歳内が先発した9月16日の試合でゲームセットを決めるスーパーキャッチをした際の「名誉の負傷」により、現在は離脱中。今年も偶数打席ではワンオクの『Wasted Nights』を使っているので、元気な姿で神宮に戻ってきた暁に、再びこの曲を聴けるのを楽しみにしたいと思う。

 こうした選手の登場曲は、球団の公式ホームページで確認できるが、筆者はなるべく見ないようにしている。今までと同じ曲なのか、新たな曲に変えたのか。特にシーズン初めはそんな楽しみもあるからだ。