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巨人ファンは“村上宗隆の184三振”を耐えられたか? 育成と我慢について考える

文春野球コラム ペナントレース2022

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「負けの美学」を持つ原監督

 巨人は3軍制を敷いていますから、すでに種はまいています。あとは水を与え、花を咲かせるだけ。岡本和真選手や戸郷翔征投手ら若き主力選手と肩を並べ、坂本勇人選手や菅野智之投手らベテランの域に入ってきた選手を負担のないポジションへと落ち着かせる存在。そんな選手を数年かけて育ててほしいのです。

 それができるのは、今季から新たに3年契約を結んでいる原監督しかいません。監督勝利数は歴代10位の名将が、次世代の大物を育てて後進に道を譲る。これ以上ない花道ではないかと思うのです。

 僕は、原監督は「負けの美学」を持つ監督だと考えています。長いシーズンを戦うなかで、ワンサイドの展開になると「今日は撤収!」とばかりに捨て試合に切り替える。2年前に野手の増田大輝選手を敗戦処理の投手として起用した試合など、象徴的でした。原監督の残り2年、腹をくくって若手を使い倒す采配を見てみたいです。

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原監督

 ここでひとつ、大きな問題があります。勝敗度外視で育成に振り切った巨人に、ファンが耐えられない……という問題です。たとえば、2019年のヤクルトは高卒2年目の村上宗隆選手を使い続け、チームは最終的に最下位に終わっています。でも、もし巨人ファンなら年間184三振を喫する村上選手を我慢できたでしょうか……。

 あらためて、他球団のファンの辛抱強さに感服せずにはいられません。でも、彼らは勝敗以外のところに価値を見出し、若い選手が育っていく姿を楽しんでいたのだと僕は思います。巨人が絶対的な球団ではなくなった今、巨人ファンもそんな楽しみ方を覚える時期にきたのかもしれません。

 ……と、まあ、つらつらと書き連ねてきましたが、たった1カ月ちょっと勝てなかっただけでこんなことを書いてしまうこと自体、他球団のファンの方々から「おまえ、何様だよ!」とお𠮟りを受けてしまうかもしれませんね。

闘争本能に訴えかけるスポーツの偉大さ

 とはいえ、一ファンがこんなにも思い詰めてしまうところに、プロ野球の興行としての偉大さを感じてしまいます。

 暗黒時代の阪神ファンは、試合に負けると大量のメガホンをグラウンドに投げ込んでいました。今ではご法度の蛮行ですが、僕は「それでも球場に通い続けるのだからすごい」と感じてしまいます。もし、純烈のライブ終演後に客席からボンボン物が投げ込まれるありさまだったら、グループは存続できなくなります。人間の闘争本能に訴えかけ、時に野蛮な行為に駆り立てる。そこにスポーツのすごさを感じてしまうのです。

 勝てなくなった巨人を前に、ファンは何を思うのか。怒り狂う人もいれば、去っていく人も、新たな魅力に目覚める人もいるはずです。今まで巨人ファンにいい思いをさせてくれた原監督には、残る在任期間で思い切った改革を進めてほしいと願っています。

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