一審無罪判決が下った「紀州のドン・ファン」殺人公判。「私は何年も人殺し扱いなので。クソッ」と法廷で吐き捨てた須藤早貴はいかにして野﨑氏と出会い、事件についてどう証言したのか。彼女が歩んだ波乱万丈の人生とは。

 老富豪の怪死は、好色家の彼が過去に著した自伝のタイトルになぞらえ、「紀州のドン・ファン事件」と呼ばれてきた。

野﨑氏の和歌山の自宅

 紀伊半島の南西に位置する和歌山県第2の都市・田辺市。この地を拠点に貸金業などで莫大な財を成した資産家の野﨑幸助氏が自宅で命を落としたのは、2018年5月24日夜のことだ。享年77。死因は急性覚醒剤中毒だった。

“紀州のドン・ファン”野﨑幸助氏

 その遺骨は、田辺湾に臨む丘の中腹にある市営霊苑に眠っている。墓石に建之者として刻まれる名は「野﨑早貴」。55歳離れた、野﨑氏の3番目の妻である。入籍からわずか105日後の死別。第一発見者でもあった当時22歳の若き未亡人には、当初から“夫殺し”の疑惑が付きまとっていた。

 建墓後、旧姓の須藤姓に戻していた彼女は、21年4月、東京都内で逮捕され、のちに野﨑氏に対する殺人と覚醒剤取締法違反の罪で起訴される。

 さらに3年半の歳月が流れた今年9月。注目の裁判員裁判が、ついに和歌山地裁で始まったのだった。

裁判には多くの傍聴人が

 迎えた12月12日。静謐な101号法廷に、裁判長の凜とした声が響く。

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source : 週刊文春 2024年12月26日号