周囲から冷ややかな目で見られる両親、娘の早すぎる成熟と亢進していく性への興味……地域のコミュニティで孤立していた木嶋家の内部はやがて静かに壊れていく――。

「突然、お父さんが部屋に入ってきて、物も言わずにいきなり佳苗の髪の毛を掴んだ。わたしたちが書斎に入り込んだことが気に入らなかったのか、理由はわかりませんが、少なくとも佳苗が何か悪いことをその場でしていたわけじゃない。私にはお父さんが試験勉強のストレスを発散するために、佳苗を殴っているようにしか見えなかった。『試験勉強のしすぎでノイローゼ気味だ。少しおかしくなっている』と大人たちが噂していることは知っていました。佳苗の身体にアザができていることもあった。噂は本当だったんだと、その時、思いました」

 父親は木嶋をひとしきり殴り続けると何も言わずに出ていった。

 木嶋佳苗の同級生で、一緒に父の書斎で映画を観ていた沢野百合(仮名)は身体が固まってしまい、声を上げることもできなかった。

「顔じゃなくて、腕とか、肩のあたりを殴っていました。私が驚いたのは佳苗が少しも抵抗しなかったことです。手で防ぐとか、避けようとするとか一切ない。泣くとか、叫ぶこともなかった。まったくの無抵抗でした。ただ終わるのをじっと待っているだけ。抵抗しなければ終わるとわかっているように見えました」

 父親が立ち去った後も、沢野は恐怖で身体を強ばらせていた。すると、木嶋が言った。その声はいつもと少しも変わらなかった。

「映画の続き、観ようよ」

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source : 週刊文春 2025年2月27日号