「母の頭の中ではどんな変化が起きているのか、それは脳の仕組みから考えるとどういうことなのか、介護の間、日記やメモとして記録し、考え続けていました」

 

 こう語るのは、「脳科学者の母が、認知症になる」(河出文庫)の著者で、脳科学者の(おん)(ぞう)(あや)()さん(45)である。2023年に実母が亡くなるまでの約8年間の介護によってたどり着いた、認知症と感情の関係性とは――。

 恩蔵さんの母がアルツハイマー型認知症と診断されたのは2015年秋、65歳の時だった。

「母が診断を受ける1年ほど前から『いつもと違う、認知症では?』と薄々感じていたのです。料理や洗濯、掃除と何でもテキパキこなす母でしたが、次第に料理も掃除も手をつけなくなり、好きな合唱練習も辞めてしまった」

 だが、脳の専門家である恩蔵さんは、不都合な真実を受け入れられなかった。

 

「あの頃は、『母が、母じゃなくなっちゃう』という恐怖心が強かった。娘の私のことも忘れてしまうのだろうか? などと最悪の事態ばかりを考えていました。脳の専門家とはいっても、最初は一般の人と変わらず、恐怖でいっぱいでした」

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source : 週刊文春 2025年6月5日号