【前回までのあらすじ】三笠の山で夫婦がクマに襲われ、妻が重傷を負った。マチは、クマの駆除に自分も参加したいと願い出る。駆除一日目、マチはアヤばあ勇吾新田と山へ入るが、この日は駆除は難しいと判断。翌日、四人が山で捜索しているところに熊野も合流する。そこに知らない男二人が現れ、「ゆるハンター」名義で狩猟の配信をしている近藤小見山だと名乗る。

 

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 飛び込んだのは、背の高いイタドリの塊のような藪だった。しかも、草の長さで分かり辛いが、かなりの急斜面だ。朝からの霧で濡れた葉が全身を叩く。

 草で隠れた地面がどれぐらい下なのかも見えない。マチはとっ、とっ、と足の裏が地面を捉えるたびにうまく重心を移動させ、ぎりぎり転ぶことなく下りきった。

「ああ、もう」

 正直、ひやりとした。人を追っている時でもなければ、マチはここまでの坂を駆け下りるような無謀なまねはしたくない。

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source : 週刊文春 2025年7月3日号