多くの人が帰路につく夏の夕方、中国江蘇省蘇州市の地下鉄「星海広場」駅に、子供の甲高い叫び声が響いた。視線が集まる先には、怯える日本人母子の姿。母親は頭から鮮血を流し、走り去る男の手には重たい凶器が――。

 現地記者が解説する。

「7月31日、日本人の母子が男性に襲われる事件が発生しました。2人が駅構内のトイレに入ろうとした際、男が石のようなもので後ろから襲いかかった。犯人は逃走し、後日、身柄を確保されました。母親は頭を縫う怪我を負いました」

 駅構内でいきなり日本人を襲った蛮行だが、犯人の動機は不明である。

昨年、男児が刺された深圳の現場付近

「実は今、中国では連日テレビやネットで“反日”的なコンテンツが垂れ流されている。それに影響されて日本人への憎悪を募らせたのではないかとも囁かれているのです」(同前)

 中国は今年、「中国人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利80周年」と名付けた節目を迎えている。政府広報「国務院新聞弁公室」の7月3日の発表によれば、この夏、様々なイベントや文化行事を連発する予定。巨大な「抗日キャンペーン」の火ぶたが切られたのだ。

 7月7日には日中戦争の発端になった盧溝橋事件から88年の式典が「中国人民抗日戦争紀念館」で開かれ、同時に大規模な展示も開始。7~9月にテレビで過去の「抗日映画」を多数放送し、映画チャンネルでは愛国作品を約100本配信。10月まで舞台上演も企画する。また新たなドラマやドキュメンタリー、例えば「勝利1945」と名付けられた映像作品等も次々と制作中だという。

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source : 週刊文春 2025年8月14日・21日号