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第11回 ワクチン遅れ「加藤勝信厚労相」という悪夢

2021年6月4日配信分

「週刊文春」編集長

「政治は結果なんですよ」

 これは安倍晋三首相(肩書はすべて当時、以下同)の決めゼリフです。

 急ピッチで進むワクチン接種ですが、残念ながら、日本は先進国の中で最下位を走っています。

 IOC(国際オリンピック委員会)の重鎮である最古参委員・ディック・パウンド委員は、小誌のインタビューでこう嘆きました。

「日本は組織化された国なのに、なぜこんなにワクチンの接種が遅いのか」

 日本で接種が始まったのは2月。しかもワクチンの確保が遅れたため、接種が本格化したのは5月でした。もし、アメリカやイギリスと同時期の昨年12月にスタートできていれば、4回目の緊急事態宣言も、東京五輪反対論がここまで強まることもなかったのではないか。

 専門家に試算してもらうと、その経済損失は11兆円に上ります。

 そこで、政治に強いエース記者に徹底検証してもらうことにしました。

 彼女の報告は、衝撃的でした。ワクチン遅れを回避するチャンスは4回あったというのです。通常、小誌の記事は長くても6ページです。しかし、極めて具体的なその取材成果を盛り込むにはページが足りず、7ページにすることにしました。

 私が、最も印象的だったのは、ワクチンの司令塔であるべき加藤勝信厚労相の動きです。

 昨年12月、菅官邸はワクチン確保の遅れに気づき、外務省ルートを使って、アメリカのファイザー本社と直接交渉することにしました。交渉役となったのは杉山晋輔駐米大使。アメリカのアザール前厚生長官を仲介者としてファイザーCEOと交渉することに成功します。

 ところが、このアザール氏。加藤厚労相と親しい仲だったのです。部下がようやくたどり着いた人物は、上司の知り合いだった――。

「早く言ってよ~」

 という名刺管理サービス会社のTVCMがありましたが、それを地で行く展開です。

 加藤氏はブログでアザール氏との2ショットを載せていましたが、いったい、何のため関係を築いてきたのでしょうか。このエピソードからも、加藤氏がワクチンの確保を最重要課題と考えていなかったことが伝わってきます。こうした人物は、記者にもいないわけではありません。こまめに会食を重ね、人脈は広いのに、肝心のネタはとれない。リスクをとらず、勝負所がわかっていない大臣でも、平時はいいのかもしれませんが、危機には向いていないリーダーです。

 “ワクチン敗戦”を巡っては新聞でもいくつか検証記事が掲載されています。しかし、どこも似たような話ばかりなのが、気になっていました。要約すれば「厚労省の官僚が能力が低い、抵抗勢力だ」というのです。官邸周辺や自民党を取材すれば、こういう話をよく聞きます。確かに、その一面はあります。

 しかし厚労官僚が“主犯”なのか。小誌記者に、ある厚労省幹部はこう漏らしたそうです。

「私たちは、法律の範囲内でしか、動けないんです」

 では、法律が危機にあたって時代遅れになっている時はどうすべきか。それは法律を変える。つまり、政治家の役割です。限られたリソースをどこに投入し、どの情報をしっかりグリップし、指揮命令すべきなのか。政治家にしかできないことです。

 小誌が提示した「4つのターニングポイント」は、「後出しジャンケンの批判だ」という声もあるでしょう。新型コロナウイルスは未曽有の危機であり、情報も少ない中、対応にあたらなければならなかった安倍政権、菅政権に同情の余地はもちろんあります。しかし、安倍氏の言うとおり、「政治は結果」です。

 政治家の決断が、国民の暮らしに大きな影響を与えるということを教えてくれたのが、このコロナ禍でした。危機にあたって同じ失敗を繰り返さないためにも、“ワクチン敗戦”はメディアは検証すべき対象です。小誌「エース記者」の自信作。ぜひ、ご一読ください。

 さて最近、安倍氏はすっかり元気を取り戻しているようです。月刊「Hanada」のインタビューで“ポスト菅”について4人の名前をあげました。茂木敏充外相、下村博文政調会長、岸田文雄元外相、そして加藤勝信官房長官。悪い冗談としか思えません。いずれも人望がない、危機に弱いとされる人物です。一緒に仕事をしてきた安倍氏がわかっていないはずありません。つまり、“ポスト菅”の候補はいない。その時は、私が――。と、この発言を見るのは、うがちすぎでしょうか。

「週刊文春」編集長 加藤晃彦

source : 週刊文春

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