前回はこちら

 

 煙たい、ガスっぽい、人の息にまみれた、昨日までに使い古した空気は、鳥の鳴き声響く夜明けの5時半にはもう少しも残っていないのに、めざめた私はベッドに仰向けになったまま、無意識のうちに、がらんとした薄暗い寝室の空間に昨夜の残り香を嗅ごうと、ほんのり冷たい鼻先を小さくうごめかすのだった。

 忘れな草色の真綿のガーゼケットから静かにはい出て、ベッドを降りると、つま先がとん、と、ひんやりした床に触れる。今日もおそらく、日中はまだまだ気温が上がるはずなのに、夜明けの床はまだこれほどまでに涼しく、私は裸足の(あしうら)をひたりと床板に密着させ、その涼しさを信じる。

初回登録は初月300円で
この続きが読めます。

有料会員になると、
全ての記事が読み放題

  • 月額プラン

    1カ月更新

    2,200円/月

    初回登録は初月300円

  • 年額プラン

    22,000円一括払い・1年更新

    1,833円/月

  • 3年プラン

    59,400円一括払い、3年更新

    1,650円/月

有料会員になると…

スクープを毎日配信!

  • スクープ記事をいち早く読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
  • 解説番組が視聴できる
  • 会員限定ニュースレターが読める
有料会員についてもっと詳しく見る

※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。

  • 3

  • 2

  • 0

source : 週刊文春 2025年9月18日号