どうしても煙草が吸いたくなった。マンションの最上階まで上がり、非常階段の中ほどに腰を下ろしたが、ガラムの箱に突っ込んでおいたはずのライターが見当たらなかった。

 だる、と舌打ちしてひしゃげた箱に残った数本の煙草を未練がましく見下ろしていると、背後から「こんばんは」と声を掛けられ、慌てて振り返る。

 (まさ)()と同年代に見える女が立っていた。服装も似たような半袖のTシャツにデニムのラフないでたちで、メイクもあっさりしたものだった。女の化粧はシンプルに見えてとんでもない工数を経ている場合もあるが、そのへんの審美眼には自信がある。

「どうも……」

 さっと立ち上がり、煙草を手のひらに握り込んで退散しようとすると「気にしなくていいですよ」と女は笑った。

「わたしも一服しようと思って来たんで」

 確かに、両手にピアニッシモの箱と紙マッチをそれぞれ持っていた。

初回登録は初月300円で
この続きが読めます。

有料会員になると、
全ての記事が読み放題

  • 月額プラン

    1カ月更新

    2,200円/月

    初回登録は初月300円

  • 年額プラン

    22,000円一括払い・1年更新

    1,833円/月

  • 3年プラン

    59,400円一括払い、3年更新

    1,650円/月

有料会員になると…

スクープを毎日配信!

  • スクープ記事をいち早く読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
  • 解説番組が視聴できる
  • 会員限定ニュースレターが読める
有料会員についてもっと詳しく見る

※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。

  • 1

  • 0

  • 0

source : 週刊文春 2025年10月9日号