給料は払えないが、引き続き働け。野党を支持するような職員は解雇する。こんなことを言われたら、どうしますか? いまアメリカでは連邦政府の職員が、こんな状態に置かれているのです。

 これはアメリカで新年度予算が決まらないから。日本の予算の新年度は4月から始まりますが、アメリカは10月からです。このため9月末までに予算を成立させなければなりませんが、これが議会の共和党と民主党の対立で成立しないままなのです。

 これでは連邦政府が一切資金を使えなくなるため、予算が成立しない場合は、現行水準を維持する暫定予算を成立させて急場をしのぐことになっているのですが、この暫定予算も成立しない状態となり、連邦政府の職員への給料が支払われなくなったのです。

 日本でも過去には3月31日までに新年度予算が成立せず、4月1日からの政府の予算支出に関して暫定予算が成立したことがあります。「政府が機能しなくなったら大変だ」と与野党が妥協して暫定予算を成立させたのですが、アメリカの議会は与野党の対立が続き、妥協が成立しないのです。

 ちなみに日本は予算案を内閣が作成して国会に提案。原則的には衆議院と参議院で可決されて初めて予算が使えるようになります。昨年までは衆参両院とも自民党と公明党の連立で過半数を維持していたため、予算は順調に成立していましたが、昨年衆院選で過半数を下回ることになった上、連立政権から公明党が離脱したため、来年度予算がどうなるかは、現時点では不透明です。つまりアメリカの予算不成立は決して他人事ではないのです。

 日本は内閣が作成と言いましたが、具体的には財務省が原案を作って内閣が承認した上で国会に提出します。一方、アメリカは議会の予算局が予算案の原案を作成します。作成の方針は大統領が発表する「予算教書」にもとづき与党が予算局と相談して予算案をまとめます。大統領には予算案作成権限がなく、議会に対して方針を示すだけなのです。

 今回、予算が成立しない一番の原因は、健康保険制度への政府支出を削減することになっているのに対して民主党が反発しているからです。

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source : 週刊文春 2025年10月30日・11月6日号