馬主になって4年。所有する馬が活躍するたび、色んな競馬ニュースで自分も紹介されるけど、いまだに見出しに「ウマ娘藤田氏が」と書かれることがある。2021年、馬主に参入した時期が、グループ会社のCygamesがリリースしたゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』が空前の大ヒットを記録したタイミングと被ったからだ。

 取材などでは何度も「偶然です」と否定したんだけど、競馬ファンにはウマ娘好きな人が多いのもあって、メディアとしてはキャッチーなタイトルを付けたいのもあるだろう。でも、ウマ娘はCygamesの社員たちが頑張って当てた作品で、それを親会社の社長である私が我が物顔でアピールしていたら嫌な気分になるのではないかと心配していた。実際、私はウマ娘のゲーム、アニメに関して、発案、制作からリリース後の宣伝まで、ほとんど何も関わっていない。ただ、あまりに自分が無関係すぎて、逆にこの件はまぁいいかなとも思っている。競馬ファンに向けての宣伝にもなるだろうし。でも本来ならば、社長として、ここは非常に気を遣わなければならないポイントである。

空前の大ヒットを記録した『ウマ娘 プリティーダービー』CCygames, Inc.

 なぜ、私が殊更に神経質になっているのかというと、「アレオレ」を言いがちなリーダーの振る舞いは、組織全体の活力を大きく削いでしまうと考えているからだ。アレオレとは、一時期のネットの流行で「オレオレ詐欺」をもじって「アレオレ詐欺」という造語が生まれたけど、ヒットした商品や儲かった事業の手柄を「あれはおれの仕事なんですよ」と横取りする人のことを指す。これに多くの人が共感したということは、みんな、近しき体験をした憶えがあるということだろう。

上司の発言にがっかり

 私自身の原体験は、新卒1年目の時だった。配属された部署の最初の上司は盛り上げるのが上手で、手取り足取り手伝ってくれたにもかかわらず、私が初受注をとった時、「藤田が全部1人でやりました!」と言わんばかりにみんなの前で褒めてくれた。それでますますやる気が漲ったのを覚えている。半年後、上司が変わり、新しい上司は営業マンとしては優秀な人だったけど、部下のマネジメントは下手だった。私が大きな受注をとった時、最後に手伝ってくれたのは助かったけど、お祝いムードの中、その上司が「あれはほとんどおれが決めたようなもんや」と発言したのを聞いてがっかりした。連載でも何度か書いている通り、私は社内のやる気を引き出すのにありとあらゆる手を尽くしている。その一つとして、マネジメント側の人間が手柄を横取りしてやる気を削いではいけないと学んだのはこの時だった。

 実際、ヒットした商品、儲かった事業は、成功するまでに主体性を持って関わった人が大勢いて、誰の手柄かを特定するのは難しい。最初にアイデアを出した人、それにお金を投資するのを決めた人、実際に手を動かして作った人、マーケティングで流行らせた人、それぞれに自分がやったという自負があっておかしくない。その中の目立つ誰か1人が全部やったかのようにメディアで報道されたら、当然ながらそれ以外の人たちは面白くないだろう。

 組織を引っ張っていくリーダーは、みんなを一つにまとめ、やる気を引き出さなくてはならない。そのためなら手柄は人に渡した方が良いというのが私の考えだ。成功したら「みんなが頑張ったから」、失敗したら「自分が責任をとる」。そのくらいの心構えでちょうどいい。一見、損してるようで、結局、優秀なマネジメントとはそういうものだ。

 幻冬舎の見城徹社長が好んでよく使う言葉が、端的にリーダーのあり方を示している。「自分で汗をかきましょう。手柄は人にあげましょう。そしてそれを忘れましょう」。最初の2行は竹下登元総理の言葉、最後の1行を加えたのは日本テレビの氏家齊一郎元会長だそうだ。どの世界でも、最初に頭角を現してくるのは自己主張の強いやつかも知れない。でも、私の新卒時代の2番目の上司のように、現場の営業マンならそれで良いだろうけど、マネジメント側になったら行き詰まる。自分だけの問題ではなく、チーム全体のやる気を削ぐからだ。ましてや、メディアに露出して自己主張ばかりする人にはみんながげんなりするだろう。

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source : 週刊文春 2025年12月18日号