年を越すのは、度を越すのと同じぐらい簡単だ。だがいつ死んでもおかしくなかったと思えば奇跡的なことだ。それを祝うために、正月の食事は特別なものにしよう。そう思ったわたしは元日に雑煮を作った。

 雑煮は栄養的には理想的な食事だ。わたしの家では、すまし汁にゆでた餅、ほうれん草、千切りの大根、かまぼこを加え、さらに甘辛く煮詰めたブリを入れる。おいしい上に栄養的にもバランスがよく、消化もいいので、一時期、ブリの旬が過ぎて脂が落ちても食べ続け、一年の大半を雑煮の朝食で通したことがある。そのとき健康の秘訣を聞かれたら、雑煮と答えていただろう。実際には不健康だったため、雑煮は不健康の秘訣になってしまった。

 朝食にしては複雑なので、時間がかかりそうに思われるかもしれないが、慣れの力は大きい。慣れないうちは作るのに40分はかかるが、慣れてくると35分で作れるようになる。それを聞いた知り合いの中年女性は鼻で笑い、「そのレシピなら10分で作れる」と豪語した。雑に作れば10分で作ることもできる料理だ。

 だがいくら健康によくても、歳をとると餅を食べるのは命がけだ。そのため数年間、雑煮を控えていたが、人生はリスクだらけだ。危険そうだと思ったら、餅を1センチ角に切ればいいと都合よく思い直した。

 簡単に作れると思っていたが、難航を極めた。100均の器具を使って電子レンジで餅をゆでたが、何度やっても失敗した。意地になって失敗を繰り返しては失敗した餅を食べているうちに、すっかりリスクを忘れ、5個食べてしまった。たぶんうまくいかない原因の一つは、餅の消費期限が5年前に切れていたからだろう。

 ブリの煮つけも失敗した。水を加えすぎたため、ぼんやりした味になってしまった。煮詰めるべきだった。

 二重に失敗したからあきらめやすい。失敗するなら大きく何重にも失敗した方がいい。今年は縁起がいい。

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source : 週刊文春 2026年1月22日号