NHKのドラマで松山ケンイチが判事をやっている……『虎に翼』のスピンオフか? いや、『テミスの不確かな法廷』という現代ドラマでした。

 判事は挙動不審である。目線がへんで、カタカタ体を震わせ、何かにつけこだわりの強い言動をする――松ケン演じる安堂清春という判事は、自閉スペクトラム症(ASD)で注意欠陥多動症(ADHD)だ。

松山ケンイチ ©文藝春秋

 韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を思い出した。主人公の女性弁護士がASD。設定が似てるとかどっちが先とかそういうのはどうでもいいが、「主人公がASD」ということをどう描いてるのかの差については気になる。

 ドラマというエンタメのために「ASDを使って」いるのなら、「エンタメの手段として(コンプラ的な意味ではなく)正しい使い方」をしてるかしてないかは重要だろう。

 ウ・ヨンウ弁護士は見るからにヘンな言動をし、いきなり画面がクジラで満ちたりする。なぜなら彼女の目には世界がそうなっているから。「常人に理解不能な世界を持つ彼女が、常人の極みのような法曹の世界でいかに苦しんだり喜んだりしながら生きていくか」を描いている。ウ・ヨンウという「不思議な女の子」の内面世界を見るドラマなのだ。

 先にそれを見てるからどうしても比べてしまう『テミス〜』。安堂判事も「見るからにヘン」で、世界の中の「異物」である。そして安堂判事の内面はわからない。何を考えてるのかはわかるけど、安堂判事には世界がどう見えているのかわからない。あくまで「外側から見た安堂判事」を中心にして回っていく。

 この描かれ方だと「お堅い世界にヘンな人が現れてヘンなこと(=スゴイこと)をする」というだけで終わることがあってそういうのはほぼ「しょーもない」ことにしかならないものだが、『テミス〜』はそうはなっていない。松ケン以外の登場人物、上司の遠藤憲一や、執行官の市川実日子も「とっぴなこと」をやったり、いかにも「変わり者」で「ヘンな登場人物出しときゃいい」という最近よくあるダメドラマそのものみたいなことになりそうだが、見ているとそうはならない。ギリギリ持ちこたえて、ドラマに集中できるようになっている。

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source : 週刊文春 2026年2月5日号