8月12・19日夏の特大号で「小誌記者『選手村バイト』でわかった安全・安心のウソ」と題する記事を発表した「週刊文春」の甚野博則記者(48)。だがこの記事の内容は、膨大な取材データのほんの一部に過ぎない。電子版オリジナル記事として、甚野記者が誌面には書けなかった“選手村の真実”を詳細にレポートする。(全4回)

◆甚野博則(じんの・ひろのり) 1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーなどを経て2006年から「週刊文春」記者。2017年に「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」で、19年に「証拠文書入手! 片山さつき大臣 国税口利きで100万円」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」スクープ賞を2度受賞。

※前回の記事を読む

「相手が何語で挨拶してきても、とにかく返事をしましょう」

◆6月2日(水)

 五輪開幕まであと51日。この日、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は、約8万人のうち、1万人の大会ボランティアが辞退したことを明かした。

 組織委員会は、辞退の理由を把握していないというが、武藤氏がコロナウイルス感染への不安を原因の一つに挙げたことは印象的だった。ボランティアには2種類ある。組織委が取りまとめている「大会ボランティア」と、東京都を始めとする自治体が募集した「都市ボランティア」だ。後者の都市ボランティアもキャンセルが相次ぎ、この時点で3500人が辞退したとの報道が既にあった。それでもなお3万人規模はいるとされ、合わせると10万人近くのボランティアが五輪に関わることになる。

◆6月18日(金)

「何度も申し上げますが、選手村で知り得たことは、一切、外部に漏らさないようにしてください」

 東京五輪開催まで約1か月に迫った6月18日、私はX社の研修で選手村の中央に位置するメインダイニング(MD)と呼ばれる食堂の中にいた。

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source : 週刊文春