第28回 なぜ、あの記者には喋ってしまうのか――「聞く力」の秘密

「週刊文春」編集長

いざ、取材してみると予想と全く違っていた。そんなことは少なくありません。特に、殺人事件では。

 今週、東京都羽村市で起きた殺人事件を取材することになりました。77歳の姉が、74歳の妹に頼まれて殺害に及んだ「嘱託殺人事件」。ただ、姉は、保釈中の身でした。今年4月に息子を嘱託殺人で殺害していたのです。半年で2回の嘱託殺人。しかも3月には夫も亡くなっている。ひょっとしたら、夫も含めた連続殺人事件なのではないか。

 出来上がってきた原稿を読んで驚いたのは、事件に至る姉の人生を詳しく取材できていることでした。取材にあたったのは事件取材のプロ・M記者と新人記者。校了の時に、M記者に経緯を聞いてみました。

 近所の取材で、姉には親しい知人がいたことがわかりました。しかし、転居しており、今はどこにいるかわかりません。必死に聞き込みを続けて結果、得られた情報は、「その知人は埼玉県のある町に妹と暮らすために引っ越した。妹は自転車関係の仕事をしていたはず」。ただ、難しいのは、妹は結婚しているため、知人とは名字が違い、名前がわからないこと。普通なら、あきらめても仕方がないケースです。名前がわからない上に、そもそも話してくれるかどうかもわかりません。

 しかし、M記者は埼玉県に向い、町の自転車屋をまわりました。でも、空振り。とぼとぼと駅に帰る途中のことでした。自転車置き場を兼ねた店を見かけたのです。「もしかして」。店に飛び込むと、そこは妹が営む店でした。そして、知人を呼んでくれて、ついに話が聞けたのです。

 こう書くと、ラッキーの連続のように思われるかもしれませんが、この背後には何件もの空振りがあります。そして、断片的な情報を引き出す力。M記者だから、できた取材でした。

 実は、このM記者には、何度も煮え湯を飲まされてきました。彼は今年3月までライバル雑誌の記者でした。「現場にMがいます」。当時、デスク会議で報告が入ると、空気が張り詰めました。M記者が投入されているということは、“勝負案件”。そして、ライバル雑誌の早刷りを見ると、うちが取れなかった話を聞けている。うちには話してくれなかった証言者を抑えている。小誌が先に証言者を抑えてリードしていると思っていた案件で、見事に逆転されたこともありました。

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source : 週刊文春

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