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第35回 ワタミは本当に変わったのか―8年越しの取材を通じて

「週刊文春」編集長
ニュース 政治

 今週号の記事を読みながら、懐かしさを覚えました。<あのワタミ執行役員の「残業増やして下さい」動画>の記事です。私にとって、ワタミは8年越しの取材対象です。

 2013年5月、参院選比例区に自民党からワタミの創業者・渡邉美樹氏が出馬することが報じられました。小誌では、<参院選キワモノ候補一覧>と題して、出馬が取り沙汰されていた候補の“身体検査”を行いました。何名かとりあげた中で、渡邉氏のことも“ブラック企業会長”と書きました。すると、渡邉氏から謝罪・訂正を求める抗議文書が届きます。

 怒った当時の編集長から、「ワタミがブラック企業かどうか検証せよ」との命が下ります。そして、3週間後に出したのが<ワタミ渡辺会長は“Mr.ブラック企業” これだけの根拠>でした。

 担当デスクだった私は、現場の記者とこう話し合いました。

「相手は参院選候補で、超お金持ち。抗議書にも法的措置をチラつかせていた。訴訟リスクはかなり高い。できるだけ内部文書を集めて、裁判になっても勝てるようにしよう」

 取材を始めると、あっさり“内部文書”は見つかりました。それは、ワタミグループ社員全員に配られていた「理念集」。グループ社員が共有すべき価値観・使命感を渡邉氏が綴った冊子です。そこにこうありました。

<365日24時間死ぬまで働け>

 しかし、ワタミでは4年前に、新入社員が月140時間を超える残業の末、自殺する事件が起きていました。にもかかわらず、こんな文言を残していたのです。

 記事が出ると、インターネットを中心にワタミ批判が吹き荒れました。また、ワタミ内部からも告発が続々寄せられました。結局、記事は参院選が終わるまで第8弾まで続くことになりました。

 2011年の東京都知事選で約100万票を得て、参院選でも上位当選が有力と見られていた渡邉氏が比例区で得たのは、約10万票。自民党で16位というギリギリの当選でした。

 この年の12月には、過労自殺社員の遺族はワタミと渡邉氏を提訴します。当初は、「責任はない」としていた渡邉氏でしたが、2015年に賠償金約1億3千万円を払って和解しました。

 この間、ワタミは“ブラック企業”と呼ばれ、2014年に上場以来初めて赤字に転落すると、居酒屋事業を中心に、経営状況はどんどん悪化していきました。何より影響が出たのが、新卒採用でした。予定人数の半分しか採用できないほど、人が集まらなくなったのです。2015年には、成長事業と期待されていた介護事業の売却に追い込まれてしまいます。

 今回、ワタミ広報の回答文を見て、「変わっていないな」と当時を思い出しました。記事はワタミの執行役員が、「月45時間を超えても構わない」と労働基準法の原則的上限である45時間を守ることより、営業活動が優先すると受け止められる発言をしていました。この発言の事実確認に対して、ワタミは次のように回答しました。

<当該執行役員はご指摘の動画内で『労働基準法を守った上で、残業する場合は上司に相談して適切な手続きをするように』とも発言し法令を遵守する姿勢の発言を明確にしております。実際、ワタミ宅食事業の今年度の平均残業時間は法令を下回る水準となっており、法令遵守を徹底しております。

 一方で会長兼社長の渡邉美樹が、労働環境改善を掲げる企業方針を打ち出している中で、今回の発言は誤解を生む表現であり適切でないと真摯に受け止め改善致します。

 渡邉からは、当該執行役員に対して今回の発言は誤解を生む表現であり、適切ではないと厳しく注意がなされました>

 ワタミ広報の特徴として、まずエクスキューズから入ります。その上で、「反省」はするが、できるだけ謝罪はしない。実は、理念集の<365日24時間死ぬまで働け>を改訂に追い込まれた時も、こう説明しました。

<上司が部下に愛情を持って接して欲しいというメッセージになっており、365日24時間死ぬまで働くことを従業員に求める内容ではありません。また、120 ページには、【私も本気で「365 日 24 時間」働いて欲しいなどと考えていません。】と本意を交えた記載が元々ありました>

<2008年にお亡くなりになられた従業員のご遺族様の心情を察すれば、言葉の表現はこれまで以上に慎重であるべきであったと考えを改め、当該表現を『働くとは生きることそのものである』に改訂させていただきました>

 参院議員を1期で引退した渡邉氏は、ワタミの会長兼社長として復帰しました。社員の過労自殺という痛ましい事件を経て、「反省」を口にしていた渡邉氏。執行役員の発言、そして変わらぬ「ワタミ話法」。ワタミは本当に変わったのか、そう疑念を抱かせる今回の記事でした。

「週刊文春」編集長 加藤晃彦

source : 週刊文春

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