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第34回 岸田首相応援演説の「有権者買収」小誌はなぜ断定したのか

「週刊文春」編集長
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 今週号の右トップは岸田文雄首相の選挙応援を巡って、岸田派議員側が聴衆を動員し、日当を支払う「有権者買収」を行っていたと報じる記事でした。有権者買収は立派な公職選挙法違反です。

 選挙違反といえば、2019年に小誌がスクープした菅原一秀経産相、河井克行法相夫妻が記憶に新しいところです。2人は、小誌発売直後に辞任し、2週連続で大臣が辞任する異例の事態となりました。2人はいずれも立件され、議員を辞職しています。

 今回、小誌は「有権者買収」があったと断じました。いくつかのメディアが、日当の領収証や案内状を入手して報じていますが、「疑惑報道」にとどまってしまいます。

 なぜ、小誌は断じることができたのか。

 取材の端緒は、岸田首相の選挙応援に参加を求める案内状にこう書かれていたことでした。

〈参加者に対しまして、日当5,000円/人をお支払いさせていただきますので、別添の名簿にてご報告を頂きたく、よろしくお願い致します〉

 さらに、5000円の領収証も入手しました。しかし、これだけでは公選法の有権者買収とはいえません。まず、この案内状や領収証が本物かどうか。さらに、実際に現金が支払われたのか。それは何人か。さらに、支払われた相手は当該選挙区の有権者なのか。

 小誌では、この確認をとるために、9人の記者を買収の舞台である茨城県に送り込みました。案内文の送り主で金銭を支払ったと見られている茨城県運輸政策研究会は、当該選挙区の茨城6区に本社を置く会員企業が200を超えます。そこを手分けして取材していったのです。取材は困難を極めました。受け取った側も“共犯”。捜査権があるわけではない小誌に、すんなり「はい、もらいました」と認める人はいません。ただ、山奥まで一軒一軒取材を続けていると、一人、二人と金銭授受と認める人が出てきました。とりわけ、複数の人物に重い口を開かせたのは、直撃取材に定評のあるベテランのS記者でした。

 受け取った側の証拠は固まってきました。問題は金を出した側です。こちらはハードルはもう一段高い。公選法違反で重い罰を受けるのは、出した側です。私はここは無理だろうなと思っていました。担当記者も同じ考えだったようです。しかし――。

 自宅まで訪ねて、取材結果をぶつけると重い口を開いたのです。当然、担当記者の聞き方もうまかったのだと思います。ただ、あきらめずに直当たりをすること。その大切さを再認識しました。

 我々はよく「詰める」という言葉を使います。疑惑を詰めて、書けるレベルに持っていく。名誉棄損で訴えられた時に勝てるか、何より読者に「これは本当だな」と思ってもらえるか。今回、有権者買収があったと断じることができたのは、記者たちがよく「詰めて」くれたからです。結局、約200社を超える会員企業をほぼ当たった(取材を申し込むこと)そうです。

 もし、今回のような「集団買収」が立件されないとなれば、今後、各地で「日当スキーム」を使った選挙違反が横行するでしょう。強制捜査権のある茨城県警がどう捜査するのか。まさか、岸田首相がかかわっているからと言って、“忖度”することはないですよね?

「週刊文春」編集長 加藤晃彦

source : 週刊文春

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