張高麗前副首相との不倫関係を告発した、中国の女子テニス選手・彭帥(35)が消息不明となっていた問題が、急展開を見せた。
11月19日に中国のジャーナリストがSNSに彭の写真を投稿し、国営メディアもテニス大会の開幕式に出席した彭の動画を掲載。そして21日には、中国の習近平国家主席と親しいと言われている国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が、テレビ電話で彼女と連絡を取ったと発表。彼女も「安全で健康だ」と語ったというのだ。
中国が問題収束を急いだ背景には、国連など国際社会からの批判と、女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモンCEOの強気な姿勢がある。
サイモン氏は中国国営放送が、彭が書いたとされるメールを公開した際には、「彼女が書いたとは信じられない」と声明を発表。適切な調査がされない場合、中国市場から撤退することも厭わない考えを示した。
この十数年で、WTAは積極的に中国市場に進出してきた。08年に開催されたトーナメントは2大会だったが、来年は10大会。撤退すれば深圳市が30年まで約10億ドル(約1140億円)でホスト契約を結んだWTAファイナルズ、中国企業が結んだ約1.2億ドル(約130億円)の契約なども無くなりかねない。
それでもサイモン氏が強く出たのはなぜか。1つには選手との関係がある。
「サイモン氏は元プロ選手ではないが、観客動員数を押し上げるなどトーナメントディレクターとして優秀で、15年にWTACEOに就任。18年には差別的な扱いを受けたと語ったセリーナ・ウィリアムズをサポートするなど、選手の人望も厚い」(スポーツ紙記者)
今回、そのセリーナを始め、大坂なおみ、ノバク・ジョコビッチなどがコメントを発表。WTAも見逃すことが出来なくなった。
サイモン氏がアメリカ人であることも大きい。先日、米中首脳会談が行われ、アメリカは北京五輪の“外交的ボイコット”も検討。サキ大統領報道官も、失踪について懸念を示していた。
何よりテニス界は人権問題に敏感だ。男女平等を目指し、ゴルフ等と違い、グランドスラムの男女の賞金額が同額。それゆえグローバル企業も他競技より数多く支援しており、彭の件も看過することは出来なかったのだろう。19年、サッカーのアーセナルの選手が中国の少数民族について発言した際、チームが「我々は政治に関与しない」と突き放したのとは大違いだ。
WTAはバッハ会長の発表も、「懸念を解消するものではない」としている。
source : 週刊文春 2021年12月2日号