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検証・オミクロン「1月危機」

《西浦教授の予測は「月末にも東京1000人の可能性」》《岸田官邸 は「東京1000人超えたら緊急事態宣言も」》《「水際対策はもう崩壊している」隔離者たちの悲鳴》《いらない感染対策 ハンドドライヤー休止は効果なし》

「週刊文春」編集部

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 東京の1日あたり感染者数は150人。年末に示された予測では、1月末にはこれが1000人に達する。オミクロンとの戦いは、早くも正念場を迎えつつある。今、我々が知るべきことは何か。国内外の識者の知見を総結集する。

「官邸では、いつ東京で感染者が1000人を超えるかを注視している。そうなれば、緊急事態宣言をいつ出すかを考えなければならない」

 こう危機感を周囲に示したのは、嶋田隆首相秘書官。岸田文雄首相の最側近で官邸を仕切る人物である。

 1月4日、東京都の新規感染者数は151人と約3カ月ぶりに150人を超えた。全国では1000人を突破。嶋田秘書官のいう“東京で1000人”までは数字上はまだ余裕があるように見えるが、オミクロン株の強力な感染力を考えたとき、危機は目前に迫っている。

 12月28日に開かれた厚労省の専門家組織「アドバイザリーボード」の会合。京都大学大学院の西浦博教授は、日本での今後の感染者数を推計するモデルを提出した。そこには今後上昇カーブを描き、1月末から2月にかけて1日あたり東京で約1000人、大阪で約500人を超える感染者の波が描き出されていたのだ。

西浦博・京大大学院教授

 つまり、あとひと月足らずの間に、5度目の緊急事態宣言が発せられる可能性があるのだ。

 同会合に出席した国際医療福祉大学の和田耕治教授が解説する。

「11月から12月を感染の底として、今の段階は既に緩やかな増加傾向に入っています。今後、1月中旬からかなり早いスピードでの感染者の増加を想定しなければいけない」

 感染症の専門医である公立陶生病院の武藤義和医師も「患者数の増加という点でいえば、第6波は既に始まっている」と語る。

「すでに東京、大阪を中心に感染が拡大しているわけですから、年末年始の帰省に伴い、おそらく今月中旬には他の地域でも増え始める。波の高さについてはまだわかりませんが」

英国を襲う“数の脅威”

 日本中に拡散しつつあるオミクロン株。だが、デルタ株と比較し、“感染力は高いが、重症化率は低い”と指摘されており、特に海外では警戒感と楽観論が同居しているような状況にあるのも事実だ。

 たとえば南アフリカ。11月にオミクロン株が確認された国だが、早くも収束の気配を見せているという。同国ネットケア社の病院部門感染管理責任者であるキャロライン・マスロ医師は語る。

「11月に始まった私たちの波はもうすぐ終わりそうです。南アフリカでは、完全なワクチン接種率は17%しかない。にもかかわらず死者は(前回)第3波の10分の1ほどでした。オミクロン株は、ワクチン接種の有無にかかわらず、重症度が低いようです。ただし、第3波と違うのは入院した患者の年齢は若く、女性の割合が高かった点です」

 一方、重症化率の低さは安心していい理由には全くならない、と愛知県立大学看護学部の清水宣明教授は指摘する。

「重症化率が低いというのは、症状が出にくいことが災いして感染を認識できない、という側面もある。つまり、知らない間に感染し、ウイルスを放出して、他人にうつすことが多いと考えられるのです。この性質は、ウイルスの生存戦略としては理想的ですし、だからこそ手強い。

 私は、オミクロン株による感染拡大のピークは2月のはじめか真ん中ごろに来ると考えます」

 現在、1日あたり新規感染者数が18万人と猖獗を極めるのが英国だ。昨夏、デルタ株が猛威をふるった時期でも5万人台だった。人口あたりの感染者数は、実に日本の400倍以上だ。英保健当局は12月29日、人口の大半を占めるイングランドでは、オミクロン株への感染が、すでに全体の93%を占めるとみられると発表した。

 オックスフォード大学の構造生物学教授、ジェームズ・ネイスミス氏は、小誌の取材に対し、英国が直面する“数の脅威”を訴える。

「オミクロン株は肺組織への感染力が弱いという研究もある。しかし、(感染者数が増えれば)非常に多くの症例が重症化する危険性があることに変わりはない。つまり、1000人当たりの重症例が4分の1でも、4倍の感染者がいれば、社会にとっては軽症による利益はゼロになる」

感染者1日18万人超の英国

 重症者の絶対数の増加は医療現場への大きな負担となって跳ね返り、やがては再び医療崩壊の危険をもたらしてしまう。鹿児島大学大学院の西順一郎教授は、臨機応変な対応が必要だと語る。

「重症化が少ないようであれば、軽症者の早期治療にシフトしていかなければなりません。高齢者にとってコロナは風邪では済みませんし、基礎疾患をもつ重症化しやすい人への対応は引き続き丹念に行う必要があります。一方、全員入院という対応は医療逼迫に繋がるので、それはこれまでの知見を活かし、ケースバイケースで判断していくべきでしょう」

経口治療薬という新しい武器

 ネイスミス教授は日本に対しても警鐘を鳴らす。

「デルタ株が英国で蔓延したときの状況を考えれば、オミクロン株も広く急速に拡がることはほぼ確実だった。そして実際その通りになったわけで、驚くべきことではない。軽い社会的規制ではこのウイルスの蔓延を止めることはできない」

 日本ではオミクロン株に“水際対策”をとってきた。現在も、外国人の入国は原則として拒否している。日本人は、指定する国・地域からの帰国の場合、3〜10日間の宿泊施設での待機を求められる形だ。

 だが、わが国の水際対策は崩壊しつつある。

「帰ってきてから、すべてが『何だこりゃ』みたいな感じで……」

 そう吐露するのは、12月中旬にアジアのある国から帰国した男性。機内で感染者が見つかり、濃厚接触者に認定されたという。

「空港で5時間待たされてから、近くのホテルへ移動しましたが、管轄が県に替わるため、3日後に次のホテルへ用意された車で移動。でもその際、コンビニへの立ち入りが許されました」(同前)

 隔離対象者に配られたしおりによれば、本来なら隔離期間中の外出は許されていない。しかし男性が車のドライバーに確認したところ、問題ないと言われたのだという。

「にも関わらず、次のホテルではエレベーターの電源が落とされるなど、徹底的に外に出られないようにしてあったのです」(同前)

 健康状態や居場所の確認に必要なアプリはダウンロードしても動かず、健康観察は電話連絡になった。

「とにかく、全てがちぐはぐで、対策が崩壊している印象でした」(同前)

 別の女性も同様に機内で感染者が見つかり、濃厚接触者と判断された。

「私は空港で8時間待たされました。水と軽食しか出ず、パイプ椅子でみんなぐったり。待っている間、みんな同じトイレを使うので、結局そこで混ざってしまう。これで隔離できているのか疑問を覚えました」

 前出の清水教授も、もはや水際でどうにかなる段階ではない、と指摘する。

「水際対策は、完全には感染者の侵入を止められないとの認識を前提に、国内の感染拡大に対応するための時間稼ぎにやるものです。その段階を過ぎ、市中感染が始まった今では、ほとんど意味がない。もちろん普段の検疫は続けるべきですが、いつまでも、強い措置を続ける意味があるとは思えません」

 では、迫り来る1月危機に、我々はどう対峙すればいいのか。

 朗報はある。先月、日本で初承認された経口治療薬モルヌピラビル。同薬を先んじて承認した英国のウォーリック大学生命科学部名誉教授アンドリュー・J・イーストン氏が語る。

「モルヌピラビルは高リスクの患者に使用されており、感染診断後できるだけ早く錠剤の形で投与される。特に、基礎疾患を有する患者などの治療において極めて重要であり、医療への貢献度は高いでしょう」

 加えてワクチンのブースター接種。日本ワクチン学会理事も務める長崎大学大学院の森内浩幸教授がいう。

「ワクチンによって体内に生成された抗体がオミクロン株に対して発揮できる能力は、従来の30分の1から40分の1といわれています。ただし、感染予防効果は減っても重症化を防ぐ効果はあります。3回目の接種によって抗体の量を何十倍と増やすことができれば、オミクロン株に対抗することは可能。3回目の意義は十分にあると思っています」

引き続き有効な対策とは?

 そして、我々が心がけるべきなのは「予防策」だ。

 オミクロン株に対してもマスク・手洗い・消毒・換気という4つの対策が要になることは変わらない。

 香港では、オミクロン株の感染者がホテルに隔離された際、自室のドアを開けていたら向かいの部屋の滞在者が感染した事例があった。デルタ株以上にエアロゾル感染しやすいと考えるべきだ。重要なのはマスクだが、不織布を選ぶべきと語るのは早稲田大学創造理工学部の田辺新一教授。

「布製と不織布は、感染者の飛沫やエアロゾルの飛散防止効果は同程度ですが、吸い込み防止効果は不織布のほうが高い」

 東大医科学研究所の検証では、話し手がマスクをせず、50センチ離れた聞き手に飛沫を飛ばした場合、吸い込み防止効果は布製で17%、不織布で47%、N95マスクで57%だった。

天神様の牛にもマスク

 オフィスや飲食店などの換気ももちろん有効。冬場は辛いが、1時間に二度は室内の換気を励行したい。

 スーパーなどでよく見かける感染対策も要継続だ。東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授が語る。

「コロナ以降、スーパーなどでお惣菜が個包装されていますが、これは浮遊するウイルスの付着を避けることや、トングを使い回さないという点で有効です。継続していくべきでしょう」

 一方、児玉教授が疑問符をつけるのは、企業や公共施設などのトイレに設置されているハンドドライヤー。未だ利用停止になっていることも多いが……。

「コロナウイルスは石鹸に非常に弱く、きちんと洗ったあとで乾かすのなら、手に残ったウイルスが風で拡散され、他人にうつるといったことは起こりにくいと思われます。それよりも乾かせないので手を洗わない、となってしまうことのほうが問題でしょう」

 メーカーによる実験でも、ハンドドライヤーで小さな飛沫は発生するものの、手洗いでウイルスが十分に希釈されていれば、感染リスクは低いと結論づけている。

ハンドドライヤーは止まったままのところも多いが……

 介護アドバイザーで総合情報サイト「All About」解説員の横井孝治氏も、特に高齢者にとっての過剰な対策を警戒する。

「極端な外出や運動の制限は、運動不足や生活習慣病の悪化などを招く危険がある。家族との接触機会が減ると、うつや認知症の発症リスクなども上がります」

 単身者なら、もちろん自宅ではマスクは不要だ。

「散歩中でも、周囲2m以内に人がいなければ、マスクを外していい。それより適度な運動を心がけ、栄養バランスの取れた食事、規則正しい睡眠によって免疫力を上げるほうが感染予防に効果的でしょう」(同前)

 ワクチンや新薬への期待はもちろん大きいが、大本となる感染対策も、油断なく継続する必要がある。

初詣には2年ぶりに多くの人出が

source : 週刊文春 2022年1月13日号

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