“靴下の神様”と呼ばれた男が――。

 1月6日、奈良県広陵町の町道で、「タビオ」(大阪市浪速区)の越智直正会長(82)夫妻が軽トラックにはねられ、死亡した。

 靴下専門店「靴下屋」などを運営するタビオ。主力は1足1000円前後と決して安くないが、品質重視で、5本指ソックスから登山用まで種類も豊富。老若男女幅広い顧客を獲得している。

 そのタビオを創業したのが、亡くなった越智氏だ。

「経営は王道を歩むべき」が持論だった(タビオのHPより)

 15歳からの丁稚奉公時代を経て、28歳だった1968年に独立して前身企業を立ち上げた。当初は取引先から門前払いされる日々が続いたが、自社製品の生産に取り組み、次第に経営は軌道に乗っていく。

 だが、70年代後半に荒波が押し寄せてくる。安価な中国製が流入し、「3足1000円」という販売形態が急拡大し始めたのだ。社内の営業部門などからは「うちも3足1000円で」という声が上がったものの、越智氏は首を縦に振らなかった。

 それはなぜか。背景にあるのは、越智氏が10代の頃から愛読してきた「孫子の兵法」だ。本人も「日経トップリーダー」の連載企画で、こう述べている。

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source : 週刊文春 2022年1月20日号