北京五輪スノーボード男子ハーフパイプ決勝で大逆転の末、金メダルに輝いた平野歩夢。平野が12歳の頃から海外遠征を共にしてきたプロスノーボーダーの降旗由紀さんが、その足跡を語った。
小さな頃の歩夢は、ほとんどしゃべらなくて、兄の英樹(えいじゅ)とずっと一緒にいる、シャイな男の子でした。なんと言っても負けず嫌いでしたね。些細なことでしょっちゅう兄弟喧嘩して。でも絶対歩夢は負けない(笑)。先に謝るのは、いつも英樹の方でした。「負ける」っていう言葉が、歩夢の辞書にはないんだと思います。
最初は英樹の方が全然上手で、歩夢が頭角を現わしたのは、「バグジャンプ」というマットを使った練習法が確立された頃からです。まずマットで技を練習し、それから雪上で実践するのですが、普通はいざ雪上でとなっても、恐怖でなかなか足を踏み出せないんです。私なんかは足が震えてどうにも出来なかったのに、歩夢はまるで何も考えていないかのように、一発でメイクした。イメージしたことを体で再現する力と、恐怖に打ち克つだけの自信。自分が出会ってきたスノーボーダーの中でも、ずば抜けていました。見事金メダルを獲得してくれた歩夢には、みんなの夢を叶えてくれてありがとう、と伝えたいです。
平野3兄弟の物語はここから始まった―――
「平野家が勝ち取った金メダルですよ」
歓喜の瞬間。顔を覆って涙を隠した高橋恒行さんは、平野歩夢の金メダルをこう表現した。平野選手が幼い頃、拠点としていた山形県小国町の「横根スキー場」で、ハーフパイプ整備を担当してきた高橋さん。まだリフトの券売機に手が届かなかった頃から、その成長を見守ってきた人物だ。
平野歩夢は1998年、3人兄弟の次男として誕生。プロのサーファーを目指していた父・英功さんが、自分の愛する“横乗り”ライフを楽しんでほしいと、幼い息子たちに3S(サーフィン・スノーボード・スケートボード)を教え始めたのは、ごく自然な流れだった。
「そこからスケボーとスノボに魅せられ、あの一家の物語が始まるわけですが、なんといっても父親の熱血指導がすごかった」
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source : 週刊文春 2022年2月24日号