「量」が「質」を生む取材とは

編集部コラム 第49回

「週刊文春」編集長
ニュース 政治

 大手資格予備校のトップはパワハラ社長。そう報じたのが、今週号の「TVでCM 資格予備校創業者『4本のパワハラ・セクハラ動画』の記事です。「総合資格学院」は資格予備校として、一級建築士試験の合格者占有率は日本一を誇り、従業員数は約750人(昨年6月時点)。売上高は約200億円にのぼり、全国に約90校を展開しています。

「総合資格学院」を創業し、今も社長を務める岸隆司氏(71)がパワハラ・セクハラの常習犯だった。この記事を、たった一人でスクープしたのがM記者です。2カ月ほど前、M記者がプランとして、会議にあげてきたのは2本の動画でした。社員の頭を叩いてるように見える動画が映っていました。もちろん、パワハラの証拠になりえます。ただ、動画は加工したり、発言もその前後の発言によってはとり方が変わってくることがあります。社内抗争などがあって、反対派追い落としのために、動画や音声を小誌に持ち込む、というケースがないわけではありません。検証に必要なのは、ファクトです。そこで、もう少し「材料を集めてほしい」と指示しました。

 M記者が凄いのは、ここからです。関係者の証言を集め、動画もさらに2本入手しました。そのうち1本は、岸社長が大勢の社員の前で「君にはもう辞めて貰うよ」、「もうボケが始まってる」と解雇通告する動画でした。このご時世、「一発アウト」なやつでした(4本の動画は電子版でご覧になれます。ぜひ確認してみてください)。

 今回は、動画という客観証拠が複数揃い、自信を持って報じることができました。ただ、動画のような客観証拠がないケースも少なくありません。たとえば、密室で行われる現金の授受、あるいはセクハラなど突発的に行なわれる加害行為は、録音や録画が難しい。しかし、客観証拠がないと一切、報じることができないのでしょうか。

 私は、そうではないと思います。そのことを学んだのが、2018年の年末合併号で報じた「世界的人権派ジャーナリスト広河隆一の性暴力を告発する』セックス要求、ヌード撮影〈7人の女性が#MeToo〉の記事でした。当然、訴訟リスクがあります。この時、ジャーナリストの田村栄一さんが言われたのは「質を量で担保する」。丹念に証言を集め、7人の女性が重い口を開きました。7人が似たような性被害を訴えている。これは、真実相当性が高いと判断し、掲載しました。

 今回、記事を書いたM記者は、芸能畑に強い記者です。小誌に来る時、「どういう記事をやりたいの?」と聞くと「芸能はもちろんがんばりますが、労働問題をやりたい。弱い人たちの声を伝えることで、少しでも世の中をよくしたい。それがやりたくて『週刊文春』に来ました」と答えました。実際、芸能でもスクープを飛ばしながら、パワハラや過酷な労働環境を告発する記事を何本も書きました。

 M記者に感心するのは、一度会議に出して通らなかった企画を、さらに新たな素材を集めて、再度提出し、実現することです。「これが追加であればできるかも」と言うと、時間がかかっても、必ずとってきます。

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source : 週刊文春

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