クローゼットを見れば、どんな人生を生きて来られたかが本当によくわかる。お客様のクローゼットチェックをするたびに、そう思います。
先日、このコラムをご覧になって、カウンセリングを受けにいらした女性がいました。「これからどう装ったらいいか分からない」とのお悩みでしたが、クローゼットを拝見し、私には彼女がこれまで大切にしてきた事が見えました。話をしていてもその方はご家族の話ばかり。家族を心から愛し、「妻・母としてふさわしい格好を」と他人軸で服を着ていたのだろうと容易にわかりました。ただ、もうその気持ちは十分にご家族に伝わっていて、これからはご自身が若い頃から好きだったという、自分本位の華やかなものを着てもきっと喜んでくれるはず。クローゼットにはそれが残ってはいませんでしたが、代わりにあったのは、上質でコンパクトなシルエットの服たち。落ち着いた色のものばかりでしたが、形は長年のお買い物の中で吟味されていました。
クローゼットに残っていた服から改めてわかったのは「エレガントなコンパクトシルエットはとてもお似合い」ということ。ただ、家族のためという役目を十分に果たした時、色柄の好みをそぎ落とし、形は完璧に行きついていたこれまでの服を見て、急に服の路頭に迷ってしまったのです。なので、形や素材はあまり変えず、色味を華やかにしてスタイリングをさせて頂きました。
処分しなかった服は、時には執着をあらわすこともあります。「この時代は良かった」「この時が一番自分が輝いていた」というポジティブな記憶を伴った服は手放しにくいもの。でも、「あー、こういう風に生きていたかったんだ」と思い出せたら、その服を、今の自分に合うサイズや質感にアップデートしてください。これ、「出世魚ブランド」と勝手に名付けているのですが、同じテイストの服でも、20代バージョン、40代バージョン、60代バージョンとそれぞれショップがあります。私達プロから見ればうまく乗り換えられるようになっているのですが、そのお店が見つけられず若い時のままだと、着丈やウエストの位置・柄などが次第に年齢にそぐわなくなり、「イタいコーディネート」になってしまうのです。
「このトップスは大好きで、以前はこう合わせていた。でも今はうまく合わせられなくてタンスのこやし」という過去の着こなし呪縛バージョンもあります。この場合、アイテム自体はその人に合っていても、その着方ではもう似合わない、ということなので、膝丈スカートをロングスカートにするなど、1度、着方のアレンジをしてみてください。
「靴箱のハイヒール、全部好きだけど全部履けません」という方にもお目にかかりました。ハイヒールで出歩くのが厳しくなってきたなら、歩きやすいヒールを徹底的に探すかシフトチェンジするしか選択肢は無いのですが、またいつか、昔のようにヒールを履いて颯爽と歩ける気がして捨てられない。好きな自分でいられるように、今の自分でできる可能性を考えてみましょう。
洋服や小物・靴は「自分らしい」を外に表現してくれる道具。そして自分が気持ちよく生きるための道具。クローゼットの中の自分が手放せないものに1度向き合って、まわりに流されず、本来自分はどんな人間でいたら幸せなのか、の答えを是非見つけてください。
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source : 週刊文春 2022年4月7日号