12歳の少年は卒業アルバムの「もしも、地球最後の日が来たら」という問いに対し、「持ち金をつかいはたす」と書き記した。それから12年。4630万円という大金を一気に手にした彼は――。
日本海に面した人口約3000人の町、山口県阿武町。長閑な町役場が大混乱に陥ったのは、4月8日のこと。町は新型コロナ支援策として463世帯に各10万円を給付したが、職員のミスでA氏(24)に、さらに4630万円を払っていたことが判明したのだ。中野貴夫副町長が肩を落とす。
「発覚後、私たちはA氏に『返金をお願いします』と頼み込み、役場の車で振込先銀行の宇部支店に2時間かけて一緒に行った。しかし、いざ銀行に着いてみると彼は『今日は手続きしない』と。100均で印鑑まで購入していたのに、組戻しの申請をしてもらえず、悲しかった。しかも、その日のうちに彼は六十数万円を引き出していたのです」
事態発覚から6日後の同月14日、中野副町長は説得のためA氏の職場である隣町のホームセンターに出向いた。約20分後、事務所に現れた制服姿のA氏は、色をなしてこう抗議した。
「自分は悪くないのに、なんで追い詰めるようなことするんですか!」
自分に非はないと語るA氏。だが、誤送金の発覚後、断続的に現金が別の口座に移され、4月22日までに残金はほぼゼロになっていた。5月12日、町は弁護士費用等を合わせた5100万円余の支払いを求め、A氏を提訴した――。
1997年、山口市に生まれたA氏は5歳下の妹と共に母子家庭で育つ。市内のアパートを転々とした後、一家は約10年前に市営アパートに移り住み、家賃約3万円の部屋で暮らした。
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source : 週刊文春 2022年5月26日号