5月28日、東京都昭島市の東日本成人矯正医療センター周辺は、早朝から支援者や報道陣、右翼の街宣車までやってきて静かな住宅街の風景を一変させた。重信房子が娘と弁護士と共に姿を見せたのは、7時55分。過去の闘争で犠牲となった人への謝罪を述べた後、記者会見で「生きて出てきたなぁという感じが強くある」と、語った。
20年の懲役を満期終了し、21年7カ月の獄中生活を終えた元日本赤軍最高幹部は、娘に支えられなければ立っていられないほど弱々しく見えた。だが、3時間後、仲間と旧友が待つ早稲田の会館に現れた時は車酔いしたというのに、微笑みながら言葉に迷いがない重信房子だった。
私は重信逮捕の翌年、2001年春、日本国籍を取得してアラブから日本に「帰国」した娘のメイを書くために、獄中の人と初めて接触した。その後、第二審を争う時期に、東京拘置所に通いながら何通もの手紙を交わし取材した。最高裁で上告が棄却、刑が確定すると接見できるのは身内と弁護士だけとなり、会うことはできなくなった。早稲田での重信は少し痩せてはいたが、12年前と何も変わっていなかった。
「刑務所の中では時が止まるからね」
そう言ったのは、この日、出所を祝うためにやってきたアキ(仮名)だった。覚醒剤で逮捕され収監、ガンが見つかり昭島に移送されて重信と知り合ったという。平日に30分だけ許される運動の時間に、ピンクの囚人服で走る「品のいい、天然で可愛いおばあさん」の正体に気づき、仲よくなった。「覚醒剤はダメ」と諭された言葉を守って、出所後はNPO法人で働く。
「通信が週2回と決められているのに、重信さんは毎日大きな封筒を出すので、看守に怒られてた。何が悪いんですか、と言い返してました。休みの日でもストレッチしてましたよ」
大きな封書は出版のためのやりとり。出所に合わせて歌集と著作が出て、明治大学時代の友人が書いた重信本の増補版も出た。かつて文学少女だった人の執筆欲は衰えていないのに、いかに運動を心がけようとも20年独房にいると体力の衰えはどうしようもないのか。話ができたのは、早稲田の集まりの後だった。
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source : 週刊文春 2022年6月9日号