危機にあたってどう対応するか、人間や企業の本質が現れる時です。細田博之衆院議長のように「事実無根」として突破を図るケースもあれば、逃げて回答しないというケースもあります。

 今週、珍しい対応をした企業がありました。家電事業で台頭するアイリスオーヤマです。「アイリスオーヤマのグループ会社で入社半年の社員が自殺した」。そんな情報をあげてきたのは、今年3月に新聞社から移籍してきたK記者でした。新入社員の自殺といえば、ワタミが思い出されます。女性社員が長時間労働の末、入社から2カ月で命を絶った事件は、ワタミが「ブラック企業」と批判を浴びる原因となりました。

 K記者のプランの端緒は文春リークスにもたらされた情報でした。ただ、自死にはさまざまな要因が考えられます。取材を進めると、SNSに〈うつ病、休職(中略)フォローする人は大変だけどそれほど追い込まれる環境もどうかと思う〉と書き残していたことがわかりました。

 事実関係の裏どりを終えたK記者は、新入社員が勤務していたグループ会社の社長宅を訪ねました。留守でしたが、家族の方が戻りの時間を教えてくれ、再訪するとすでに帰宅していた社長が取材に応じました。社長は痛恨の思いを口にした後、現状わかっていることを説明してくれました。

 続いて、アイリスオーヤマ本社の大山晃弘社長にも取材しました。大山社長の対応も丁寧だったそうです。

 取材対応が丁寧だったからと言って、記事がなくなるわけではありません。ただ、取材を通じて、アイリスオーヤマが今回の事件に向き合おうとしていることはよく伝わってきました。大山社長は、グループ会社の全国5000人超の従業員に、オンラインで社員の自死を説明し、残業時間など都合の悪い情報も隠さなかったそうです。

 一方、小誌では8週にわたって、くら寿司の記事を掲載しています。店長が店舗の駐車場で焼身自殺したという衝撃的な事件。上司からパワハラを受けていたとの証言に加えて、〈ほとんど寝てない〉〈仕事のことを考えると吐き気が〉などと吐露していた本人のSNSも見つかりました。しかし、くら寿司は、自殺は会社の業務とは関係なく、店長の個人的事情によるものと回答してきました。記事を出すと、次々に文春リークスに、従業員たちからの告発が相次いだことは、以前のニュースレターで書いた通りです。

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source : 週刊文春