涙もろくなった、涙腺が緩くなった――中年同士の会話でたまに出てくるフレーズだ。感動的なドラマを見ていて涙が止まらない、なんて話もよく聞く。
実は私、犬が主役のドラマや映画に弱い。そり犬の悲劇、「南極物語」なんて10代の頃から何度見てどれだけ泣いたか……。
音楽もそう。実は私、クラシックの重厚な名曲に弱い。モーツァルトのレクイエム「涙の日」なんて10代の頃から何度聞いてどれだけ泣いたか……。
自分は感受性が豊かなんだな、と昔から納得していた。だがネット等で調べてみると「感情の抑制機能低下」「うつの初期症状」などと穏やかでない説明文が多くある。感情と現実、今の時代は安心して泣く(?)のも一苦労である。
将棋の対局もドラマである。叡王戦の第三局は藤井聡太叡王の勝利。タイトル防衛で幕を閉じたが、局後の主役はむしろ挑戦者の出口若武六段であった。
初の大舞台、終盤のチャンス、一手の逆転、藤井叡王の壁……。感想戦の大盤解説会場で流した涙はファンの心を打つものであった。
振り返れば私も2002年、「朝日オープン将棋選手権」の決勝五番勝負を堀口一史座五段(当時)に1勝3敗で敗れ、自室で和服を畳みながら涙が止まらなかったものだ。
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source : 週刊文春 2022年6月16日号