映画「シン・ウルトラマン」で、メフィラス星人(演・山本耕史)がウルトラマン(演・斎藤工)に地球進出の協力を呼び掛けるシーンは、妙に印象的だった。日本社会に過剰に適応しているメフィラスは、ウルトラマンに「河岸(かし)を変えよう」と言い出し、なぜか二人は人間の姿で居酒屋で酒を酌み交わす。かなり謎の展開だ。そして最後に、変に場慣れしたメフィラスは生意気にも店員に「おあいそ」を求め、ウルトラマンには「ワリカンで」と提案する。
メフィラス! どこまで日本社会に適応してるんだ!! オマエは新橋のサラリーマンか! と思ったが、とはいえ、そこは外星人(がいせいじん)。見たところ二人が飲んでる居酒屋は浅草の某有名店だったが、その店は実は前払い食券制なので「おあいそ」は不要なのだ。残念。メフィラス、もう少し日本社会を勉強するべきだったな。
というわけで、いまや外星人にまで日本の習俗として知れ渡っているワリカン文化。これを遡ると、なんと室町時代にまで辿り着く。
たとえば、室町時代の京都には、すでに市中に風呂屋があって、現代の健康ランドやサウナさながら、人々の人気を集めていた。当時の風呂は一般的に蒸し風呂形式だが、これは湯舟に大量の湯を沸かさなければならない沐浴(もくよく)形式に比べて、燃料費の点で遥かに安価なので、とくに庶民階層には重宝されたようだ。店内には、ちゃんとアカスリのスタッフまでもが配備されていた。
ところが、高貴な身分の人々には下賤の者たちと同じ風呂に入るのに抵抗があったので、しばしば風呂屋を1軒贅沢に借り切って利用することがあった。これを「留め湯」という。留め湯の料金は、50疋(ひき)(500文)と言われているから、現在の5万円程度(『教言卿記(のりとききょうき)』1408年10月2日条)。まぁ、貸し切りなら妥当な値段といったところだろうか。
とはいえ、これを一人で全額出資するのは、さすがに負担が大きい。しかも、風呂屋の広さを考えたら、一人で独占するより、気心知れた何人かで共同利用するほうが合理的だ。そこで生まれたのが、複数人によるワリカン形式の留め湯で、当時これを「合沐(ごうもく)」と言った。現代でも友達や家族でサウナを借り切るプライベートサウナというのがあるそうだが、それと同じ発想と言えるだろう。
面白いのは、この風呂屋の業界用語が、当時の盗賊仲間の隠語になっているところである。この頃、盗賊団に入るには上納金が必要とされ、その金額は「上」は7貫文(約70万円)、「中」は5貫文(約50万円)、「下」は3貫文(約30万円)とルール化されていた。これらの金額を払って、初めて盗賊一味に入れるというのだ。当時の盗賊団は、意外にシステマティックだった。
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source : 週刊文春 2022年7月7日号