安倍晋三元首相を暗殺した山上徹也容疑者の犯行動機を巡って、注目を集めることになったのが統一教会(2015年に世界平和統一家庭連合に改称。以下、統一教会と記述します)です。実は、この統一教会、「週刊文春」にとって、因縁のある宗教団体です。
1992年、霊感商法が社会問題化する中、フリーのジャーナリストだった有田芳生さん、当時「週刊文春」の記者だった石井謙一郎さんたち取材班は、新体操の元五輪選手でタレントとして活躍していた山﨑浩子さんが「合同結婚式」に参加することをスクープします。さらに、桜田淳子さんも参加を表明し、メディアは騒然となりました。
この合同結婚式は、「祝福献金」として140万円を支払う必要がある、れっきとした宗教行事です。さらに、取材班は司会者として活躍していたタレントの飯星景子さんの名前も上がっていることをスクープしました。すると、飯星さんの父で作家の飯干晃一さんから「取材班に加えてほしい」と連絡が入ります。そして飯星さんは、娘の景子さんの奪還に成功するのです。
続いて、山﨑浩子さんも教団と連絡を絶ち、脱会を決意します。そして、第一報の翌年の4月、山﨑さんは「週刊文春」に手記を掲載し、教団の訣別を宣言しました。
映画のような統一教会との攻防。この間、取材班に尾行がつく、山﨑さんの説得にあたっていた叔父のバッグが盗まれる、家に盗聴器が仕掛けられるなど、異常事態が頻発していました。
統一教会にとって“不倶戴天の敵”とも言うべき相手となった小誌。思い起こせば、会社に出社する際、大勢の人が文藝春秋の社屋を囲んでいたことがありました。それが統一教会の信者たちでした。2011年9月、石井さんが書いた記事を巡る抗議のため、信者たちが小社を包囲。シュプレヒコールを上げたり、小社社員を含む通行人たちに教団の主張を載せたとおぼしき小冊子を配る。また、記事を書いた石井さんを実名で誹謗中傷するビラも巻いていました。
さらに、小社1階にある応接スペース「サロン」で打ち合わせしていると、「あんたたちは~」とものすごい怒鳴り声が聞こえます。応対していたのは、一連の記事の担当デスクで、のちに「週刊文春」編集長になった松井清人さん(当時は「週刊文春」の担当役員だったと思います)。統一教会の幹部たちから抗議を受けていたのです。
松井さんに「大変ですね」と声をかけると、「あいつらはいつもああやって、わざと大声を出して威嚇してくるんだ。でもあいつらもわかっていて、手は出してこないから」と言って、悠然としていました。
ただ、私にとっては、山﨑浩子さんなどの報道は入社前のこと。今回、改めて記事を読んでみて、先輩たちがどれだけ、リスクをとって、踏み込んで取材をしてきたのか、よくわかりました。石井さんは、私が記者の時、「週刊文春」でご一緒しましたが、文章がうまい穏やかな先輩という印象でした。その石井さんが、統一教会とこれだけ熾烈な戦いを繰り広げた“勇者”だったことを再認識しました。
今回の事件を受けて感じたのは、「悪事はいずれ露見する」ということです。先輩たちが、「これはおかしい」と感じ、徹底的に取材して、強大な敵であっても臆せず、ひるまず書いたことで、時を経て、再びその正しさが証明される。「週刊文春」の魂をつなげていかばならないと、改めて思いました。
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source : 週刊文春