保育士を辞めずに働く母の背中を見ていたから、自分もずっと働くんだろうなと思っていました。|堀井美香

新・家の履歴書 第792回

中村 竜太郎
ライフ ライフスタイル

(ほりいみか フリーアナウンサー。1972年、秋田県生まれ。法政大学卒。95年、TBS入社。『王様のブランチ』『お天気クジラ』『久米宏 ラジオなんですけど』等の番組に出演。22年にフリーに。現在は、全国各地で「朗読を楽しむ」会を主宰している。著書に『音読教室』。)

 

 今年4月、帰省ついでにひとりで私、生家を回ってみたんです。いま誰が住んでいるかは知らないんですけど、そのまま残っていて、もう涙が出ましたね。

 生まれたのは秋田県男鹿市。父は特定郵便局の局長で、母は保育園の保育士。兄と姉、妹の4人きょうだいです。母が勤める海沿いの保育園に通っていたんですけど、園が終わるとみんなで海岸へ行き、ギバサやワカメなどの海藻を採って持ち帰り、食べていましたね。歩いてすぐのところに漁師をやっているおじやおばがいたので、いつも獲れたての新鮮な魚介類を食べさせてもらい、何もない田舎町ではありましたが、その点はすごく贅沢でした。

 一時期うちの母が病気をして、そのおじとおばの家に預けられたんですけど、漁師なので漁が終わると、そのまま近所の酒屋の角打ちに行っちゃうんです。それを午後3時くらいに迎えに行くのが私の役目。家と家の間の小道を抜けて、帰りに必ずゆで卵を買ってくれるのが楽しみでした。それでこの間、なつかしい小道を歩いてみたら、ちゃんとした道だと思っていたのに、足を踏み入れてみるとこんな狭い路地だったのかとしみじみ感じました。けれど、港に漂う潮の香りを嗅ぐと、あの頃に戻ったような気持ちになりましたね。

毎朝、国語の教科書を声を出して読む。やらないと、母が学校まで追いかけてくる

 27年勤めたTBSから今年4月に独立したフリーアナウンサーの堀井美香さん(1972年生まれ)。ナレーションのうまさに定評があり、ジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組『オーバーザサン』でも人気の彼女だが、大学入学で上京するまでは地元・秋田で過ごした。豊かな自然に囲まれ、のびのびと育った素朴な少女時代。東京は遠い世界だったという。いまでも「自分がこうしてアナウンサーをやっていることが不思議なんです」と謙遜して語るが、人生の選択には少なからず家族の影響があったようだ。

 父の仕事の都合で、小学4年生のとき男鹿から秋田市に引っ越しまして、おじいちゃんとおばあちゃんと二世帯で一緒に住むようになりました。もともとの父の実家で、田舎の古い家ですから広いんですけれど、薄暗い印象の記憶がありますね。

 食事は全員が居間に集まって一緒にします。うちの畑で採れた野菜だとかご近所さんが持ってきてくれたものとか、それをずっと食べているような田舎の食卓。親戚も近くに住んでいたので、お盆やお正月や寄り合いなんかは、ふすまを外し大広間にして宴会をしていました。

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source : 週刊文春 2022年8月4日号

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