「佳い句が沢山ありましたね」。今回、読者のみなさまにご応募いただいた2000句以上のなかから、俳人の池田澄子さんに20句を選りすぐってもらいました。池田流・鑑賞のポイント、作句の心得も!
選句の際、私がいちばん待っているのは、「こんな句は初めて」という驚きです。こんな書き方があったのか、こんな瞬間をよくぞ俳句に、そんな小さなことに気付けるなんて、とびっくりする俳句に出合うのが愉しみなの。
今回はそんな驚きを沢山させていただきました。特選5句、佳作15句に絞りましたが、本当は、もっともっと選びたかったです。それにしても短期間にスゴイ数の投句でしたね。
《特選》
樹木みな戦後の生まれ沖縄忌
(大阪府 うはのそら 72歳)
その驚きがもっとも大きかったのがこの句です。「樹木みな戦後の生まれ」というのは、敗戦の時点では沖縄の樹木はほぼすべて死んでなくなっていたということ。沖縄の地が焼け野原と化したこと。その惨状をこんな風に捉えるとは。沖縄の樹木が戦後生まれとは、言われてみれば本当にその通りでね。当時の惨劇の景が迫ってくるようで鳥肌が立ちました。
実は私、少し前から気にかかっているのが「忌」という字です。「忌」には忌み嫌う、忌まわしいという意味がありますが、俳句では季語として「〇〇忌」がよく使われます。たとえば「子規忌」(9月19日)なら秋の、「虚子忌」(4月8日)なら春の季語。詠み手は〇〇のことを今も大事に心に留めていますよ、いつまでも忘れませんよと思いを込めて詠むのです。ただ、そうなると「原爆忌」は言葉としておかしいかもしれない。まるで原爆を懐かしむ意味になりそうで。原爆忌俳句大会などもありますが、そう気づいてから私は「広島忌」「長崎忌」と書いています。
また「3・11」以降、「福島忌」も詠まれています。福島の方のなかにはこれを嫌がる人もいらっしゃるみたいです。でも、そう詠むとき作者は、福島を愛おしんでいる。私は毎年、亡師(三橋敏雄氏)への「敏雄忌」の句を詠みます。その「忌日」という思いで「福島忌」と詠んでいるのでしょう。ということで、「忌」という言葉について考え続けているところです。
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source : 週刊文春 2022年8月18日・25日号