大学時代の僕は、必ずしも日本史だけをひたすら勉強していたわけではなく、もう一つ、全然別の分野を大学の「外」で勝手に学んでいた。
その大学の「外」での、もう1人の師匠が、夏目房之介さんだ。夏目さんは日本のマンガ研究の開拓者で、「BSマンガ夜話」の出演などで知っている人も多いだろう。実は大学生の頃から僕は、その夏目さんのところによく出入りしていた。
きっかけは、僕が入っていたミニコミ雑誌のサークルだった。後輩たちが夏目さんにインタビューする機会があって、その縁で夏目さんから市民向け連続講座のサクラを僕らが頼まれたのだ。
夏目さんは、それまでマンガ家、エッセイスト、テレビタレント、「漱石の孫」と、マルチな顔をもって活動していたが、1992年に『手塚治虫はどこにいる』(筑摩書房)を出版したのを機に、マンガ研究に本腰を入れようとしていた。とはいえ、マンガ研究なんて、まだほとんど誰も本気で取り組んでいなかったし、本人も暗中模索で、依頼された連続講座も受講生が集まるのかどうかすら怪しい状況だった。そこで、たまたま僕らがサクラとして、江東区で行われた連続講座に動員されたわけだ。
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source : 週刊文春 2022年9月8日号