後の供述から浮かび上がってきたのは、聞くに堪えない地獄絵図だった。
身長180センチの大柄な男が、鬼の形相で卒寿を過ぎた老女の髪を掴み、ベッドから引きずり回す。木の枝をへし折るように、か細い両腕を骨折させてなお、男は老女の顔面を力任せに殴打し続けた。常軌を逸した暴行は、約20分に及んだという。
介護職員の菊池隆容疑者(50)が我に返った時、眼下にある要介護4の山野辺陽子さん(92)の身体は、ピクリとも動かなくなっていた。現場は、東京都北区の閑静な住宅街にある特別養護老人ホーム「浮間こひつじ園」1階東側の個室。9月15日午後11時頃のことだ。
「被害者の死因は頸髄と脳幹の損傷とみられる。両腕のほか胸椎も折れ、肘が脱臼していた。さらに、顔面から背中にかけて、ポットの熱湯を浴びせられてできた熱傷の痕があった」(捜査関係者)
同施設は4階建て。約110の部屋がある。菊池はこの日、午後10時から翌日朝7時までの夜勤シフトに入っていた。職員によれば、夜間は各フロアのユニットごとに10人から20人の入居者をスタッフが1人で担当するという。凄惨な事件が発覚したのは、次のシフトの職員たちが出勤してきた16日の午前7時過ぎ。菊池は犯行後、施設の窓から逃げ出していた。
自首する気がないのは明白だった
「昔、住んだり行ったことのある場所を通って、北海道に行って死のう」
そんな独りよがりな覚悟を決めた菊池は16日未明、渋谷区内のコンビニのATMなどで現金90万円を下ろすと、その後もタクシーを不規則に乗り継ぎ、“ハッテン場”として知られる上野の男性専用サウナに立ち寄って朝を待った。電車が動き出してからは、小刻みに路線を変え、本州を北上していく。
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source : 週刊文春