「Alright, what I want you to tell Inoki is, and his managers and all of those involved, tell them that,〈私が猪木や彼のマネージャー、全ての関係者に伝えたいのは――〉」
音源を再生すると、やや甲高い声の持ち主が、抑揚を抑え言葉を紡いでいく。
名指しされた“猪木”とは当然、日本のプロレスラー・アントニオ猪木(享年79)。そして、喋り続ける声の主は、当時のWBA・WBC統一世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリその人だ。
猪木を語る上で欠かせないハイライトの1つが、異種格闘技戦「アントニオ猪木対モハメド・アリ」。対戦が実現したのは、1976年6月のことだ。
小誌は今回、米国のボクシング関係者から、1975年頃に録音されたとされる貴重なアリの肉声を入手した。つまり、“世紀の対戦”が行われる前段階のものだ。以下〈 〉内は、その和訳である。
〈私が約束するのは、エキシビションファイトを戦うということ。(略)私は猪木を本気で痛めつけようとはしないし、猪木も本気でやろうとはしない、ということを国民に知ってもらいたい〉
アリの主張は、決して一筋縄ではいかない。
〈もし私が猪木を手加減して殴った上で、彼が怪我をしたフリをしたり、私が腕を捻られて怪我をしたフリをしたとしたら、これはリアルではないとバレてしまうだろう。私はそれには関わることができない〉
アリは猪木と対戦するにあたって「八百長など仕組まれた試合はしない。台本がある戦いならば、それはエキシビションマッチとして、事前に記者会見して周知すべきだ」と、繰り返し主張しているのだ。
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source : 週刊文春 2022年10月13日号