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老眼の「最新常識」メガネは? 手術は?

鳥集 徹
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 いち早く40代から現れる老化現象、老眼。たかが老眼と侮るなかれ。頭痛や肩こりの要因になるし、高齢者にとって視力の低下は認知症リスクを押し上げる。ではどうしたらいいか。格安店の老眼鏡でOK? メガネ型ルーペは? 手術は? 最新情報で総まくり!

(とりだまりとおる ジャーナリスト)

 中高年になると、誰もが悩まされるのが「老眼」だ。

 かくいう筆者も50代に入ってから、原稿を執筆する際にパソコンの字が見えづらくなり、1年前から近視用のメガネ(遠用メガネ)に加えて、パソコン用の老眼鏡(近用メガネ)を愛用するようになった。

 
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 小さい字が見えづらくても、メガネをかければ事足りると思いがちだ。しかし、たかが「老眼」と侮ることなかれ。合わないメガネをかけ続けていると眼精疲労を起こす。頭痛や肩こりが治らずに病院をめぐった挙句、眼科で老眼が原因とわかり、老眼鏡の調整で改善する人も多いという。

 また、詳しくは後述するが、70を過ぎると白内障に悩む人も増える。老眼の進行が止まったと思ったら今度は白内障……。年を重ねるに伴い、「眼」の悩みは尽きなくなる。

 健やかな「老眼期」を過ごすには、快適に見える眼の矯正が不可欠。そこで、どんな老眼鏡がいいのか、手術で老眼は治せるのかなど、素朴な「老眼」の疑問を著名な眼科医に聞いた。

眼科?メガネ店?まずどこへ行くべきか

 

 個人差はあるが、多くの人は40代に老眼を自覚し始める。とはいえ、それくらいの年齢だと老眼鏡に抵抗のある人も多いだろう。

 何歳くらいから老眼鏡をかけるのがいいのか。

小さな文字を見続けて、疲れると感じるならば、早めに対処したほうがいいと思います」

 そう話すのは、吉野眼科クリニック(東京都台東区)院長の吉野健一医師だ。

吉野氏

 そもそも老眼はなぜ起こるか。加齢とともに水晶体の弾力が失われ、硬くなる。近くを見る際には水晶体を厚くするため、その周りにある毛様体筋が収縮する。しかし、年を取ると毛様体筋が収縮しても水晶体が十分厚くならないので、近くが見えづらくなるのだ。

「まだ40代だと多少の調節力が残っていて、なんとかピントを合わせられる人が多い。だからその間、本人はまだ老眼ではないと思っている。しかし、毛様体筋はがんばっているので眼が疲れる。見える、見えないで老眼鏡をかけるのではなく、眼を疲れさせないためにも、疲れやすいといった症状があれば、早いうちから老眼鏡を使ったほうがいいのです」(吉野医師)

 老眼鏡が必要だと感じたら眼科に駆け込むべきか、それともメガネ店で作ればいいか。みさき眼科クリニック(東京都渋谷区)院長の石岡みさき医師はこう話す。

石岡氏

「レンズの調整は、しっかりしたメガネ店であれば、眼科よりも上手なことがあります。レンズの種類もよくご存知で、フレームの調整もしていただけますから、老眼鏡をつくるだけなら、メガネ店に任せていいと思います」

 ただし、老眼世代は緑内障になる人が増える年齢でもある。緑内障は眼圧が高くなるなどの原因で視神経が障害される病気で、視野が狭くなったり部分的に見えなくなったりする。早期なら治療で病状の進行を抑えることができるが、症状が出たときにはかなり進んでおり、治療が困難となる。

「緑内障の多くは自覚症状に乏しいので、検査をしない限り早期に見つけることはできません。ですから50代以上の人は、一度は眼科に行って、老眼鏡の処方をしてもらうついでに、眼圧を測ったり眼底写真を撮ってもらったりするといいでしょう」(同前)

眼圧測定、眼底写真といった検査は重要

 緑内障などの病気がないことがわかっていれば、老眼鏡づくりはメガネ店に任せてかまわない。ただし、技術力は店によって差がある。レンズとフレームのセットで1万〜数万円が相場だが、近年はセットで数千円と、非常に安い料金で作ることができる全国規模のチェーン店も増えた。そのような店でもいいのだろうか。吉野医師は言う。

「老眼鏡に限らずメガネは、『よく見える』こと以上に、『快適にかけられる』ことが大事です。快適な老眼鏡とは、毛様体筋が過度に緊張しなくていいメガネということになります。それには、その人が老眼鏡で何を見たいのか』を考慮する必要があります。熟練の技術を持つ店員さんがいるメガネ店なら、そうした点も考慮してレンズを調整してくれるでしょう」

 新聞や雑誌を読むときだけ必要な人と、パソコン仕事や手元の細かい作業を長時間続ける人とでは、レンズの調整の仕方が変わる。その距離にピントが合っていないと、眼の奥が重くなる、頭痛がする、吐き気がする、肩がこるといった症状が起こりかねない。

 しかし、多くの客をさばく格安メガネ店だと、客のニーズをじっくり聞き取る時間はあまり取れないかもしれない。また、安物のレンズだと歪みのある場合があり、それが目の疲れの原因になる場合もある。本人が満足できているならかまわないが、快適なメガネを作りたいと思うなら店を選び、それなりの費用をかけたほうがよさそうだ。

 ちなみに国家資格ではないが、公益社団法人日本眼鏡技術者協会による「認定眼鏡士」という制度があり、S級からSSS級までの等級がある。この資格を持つ店員がいるかどうかも、メガネ店を選ぶ目安の一つになるかもしれない。

「老眼鏡」と「メガネ型ルーペ」の違いは

 

 もともと近視用のメガネ(遠用メガネ)を使っていて、老眼鏡にかけかえるのが面倒だという人には、遠近両用のメガネやコンタクトもある。最近は境目のない「累進レンズ」が主流となり、遠近両用に抵抗感のない人も増えたようだ。

 ただし、遠近両用も合う人と合わない人がいる。石岡医師が解説する。

「遠近両用は、仕事や家庭であまり細かいものを見ることはないという人には向いています。しかし、パソコン画面や細かい手元の作業は、遠近両用では見えづらいという人が多い。

 実際、私もふだんは遠近をかけていますが、職場ではあまり遠くを見ないので中近(中距離と近距離)のメガネを使い、さらに細かい処置のときには手元がよく見えるメガネに換えるといった具合に、状況によって使い分けています」

 細かい文字をよく見たいという人には、メガネ型の拡大鏡(ルーペ)」を使う手もある。最近は、お尻で踏んでも壊れない耐久性をアピールするテレビCMで話題となった、1万円以上する高級な商品も販売されている。これと老眼鏡は、どこが違うのか。

「近くにピントを合わせるという点では、老眼鏡と原理は同じです。ただ、老眼鏡は眼の度数に合わせて作りますが、拡大鏡の度数は最初から決まっています。小さな文字を読むときに便利だと感じて拡大鏡を使っている眼科医もいますが、仕事などで長時間かける必要のある人は、同じくらいの値段で老眼鏡が作れますので、そのほうが楽かもしれません」(同前)

 高級な拡大鏡もあれば、百円ショップ(百均)で買える老眼鏡もある。メガネにあまりお金を出したくないという人もいるだろう。こちらはどうか。

「百均の老眼鏡は左右の度数が同じで、乱視矯正もありません。たまたま両眼の度数が同じ人には、『百均でもいいですよ』と言うことがあります。宅配便のハンコを押す時だけ使うといった人にもいいでしょう。また、白内障などの術後に視力が安定するまでの間だけ百均の老眼鏡を使ってもらうことがあります。でも、大抵の人は、左右の眼の度数が違います。長時間かけるのなら、やはり自分に合った老眼鏡を作ったほうがいいと思います」(同前)

老眼を矯正する手術はどうか

 メガネをかけかえるのが面倒で、なんとか老眼を治したい、進行を抑えたい人もいるはず。眼の体操や、特殊な模様を見ることで老眼は治せると謳う本も売っているが、効果は期待できるか。吉野医師は言う。

「明確なエビデンスはありません。前述した通り、そもそも老眼は、水晶体が加齢とともに硬くなるために、その厚みを調整できなくなることで起こります。一度硬くなったレンズを若かったときのやわらかい状態に戻すのは難しいのです」

 ただし、遠くをボーッと見ることで、老眼によって起こる眼の疲れを取ることは期待できるという。

「遠くを見る時には水晶体を薄くしようとして毛様体筋が緩むんです。昔から、眼の疲れを取るには遠くの緑を見ればいいと言われますが、それも理屈にかなっています。

 屈折率は色によって違うのですが、緑色は屈折率が高く、水晶体を厚くしなくても、焦点が合いやすいのです。パソコン作業などで疲れたら、窓の外の樹木の葉っぱを見るなどして休むと効果的かもしれません」(同前)

 それでも眼の疲れが取れない人には、毛様体筋の緊張を緩める調節麻痺剤や、筋肉にエネルギーを供給するアデノシン三リン酸(ATP)を配合した目薬がある。眼科で処方してもらうといいだろう。

 老眼を治す選択肢として、「モノビジョン」という治療がある。これは、眼の表面の角膜をレーザーで削って近視を矯正する「レーシック」の技術を使った治療で、利き眼の焦点を遠くに合わせて、もう片方を近くに合わせる方法だ。

 クイーンズ・アイ・クリニック(横浜市西区)院長の荒井宏幸医師が解説する。

荒井氏

45歳から50代前半の、まだ水晶体がきれいな人に向いています。左右の視力に差があっても、一定の範囲内であれば脳が誘導して、1つに見えるようにしてくれます。レーシックを受ける前にコンタクトレンズをつけてモノビジョンを体験することもできるので、それでしばらく過ごして満足できそうなら、一つの選択肢になるでしょう」

 ただ、過去に儲け主義の眼科医によるずさんなレーシックの手術で、ひどいハロー・グレア(光が滲んだり、まぶしく感じたりする)が出たり、眼に感染症を起こしたりする被害が多発した。それだけに、満足な結果を得るためには、医者選びが大切だ。どんな眼科を選べばいいか。

ネットだけの情報で選ばず、いくつか眼科を回って、直接執刀医と話をしてください。マイナス点も隠さず説明し、満足いかない結果だった場合にはどんなリカバーの仕方があるかという話までしてくれるなら信頼できるでしょう。

 また、どんな仕事や生活をしていて、どんな見え方を望むのか、しっかり話を聞いてカウンセリングしてくれる眼科がいいと思います」(同前)

白内障が進行したら「眼内レンズ」

これが「眼内レンズ」

 老眼は70代前後で進行が止まる。だが、その頃には白内障が進んでいる人が多いので、高齢者にとって老眼の矯正は白内障の治療と併せ、「眼内レンズ」によって行う、という選択肢が出てくる。

 どのタイミングで手術を検討すべきだろうか。荒井医師が言う。

「メガネを新調しても見えづらく、不便を感じるようになったら、行動に移すべき時だと思います」

 白内障が進むと水晶体が白濁し、まわりがかすんで見える、光がまぶしい、像が歪むといった症状が出る。ゆっくり進行するので、中には見えにくいことに慣れ、濁りが強くなっても「あまり不便には感じない」という患者もいるという。

 しかし、脳が認識する情報の80〜90%は、眼から入ると言われている。視力が低下すると高齢者は認知機能低下のリスクがある一方で、白内障手術を受けると日常生活機能が改善し、認知機能も改善するという報告がある。

 また、白内障は進行するほど水晶体の硬さが増し、超音波で砕くときに水晶体の袋や角膜を傷つけるリスクが高くなる。こうした点からも手術の決断は早いほうがいいという。自覚症状があった場合には眼科医に早めに相談すべきだろう。

 白内障手術で入れるレンズには、特定の距離だけがよく見えるようになる「単焦点レンズ」と、遠距離、中距離、近距離とも見えるようになる「多焦点(2〜5焦点)レンズ」がある。現在、健康保険が全額適用となるのは単焦点レンズで、費用は3割負担の場合、両眼でおよそ8万円強となる。

 多焦点レンズは、2020年4月から手術代だけが保険適用になり、レンズ代は自費の「選定療養」で入れられるようになった。費用は手術代とレンズ代を合わせて両眼で40万〜80万円のところが多い。

 さらに、最新の5焦点の眼内レンズなどを選べる完全自費(自由診療)の白内障手術を行っているクリニックも多い。この場合の費用も医療機関によって異なるが、両眼で百数十万円以上するケースが多い。

 お金をかけてでも多焦点レンズを入れるべきか。

「白内障さえ治ればいい、術後も近くを見る時には老眼鏡をかけてかまわないという人は単焦点でいいと思います。一方、白内障だけでなく老眼も治したいとか、仕事上、眼鏡をかけはずしするのは困るという人には、多焦点レンズをお勧めしています」(同前)

 老眼の不便を解消するという点では、やはり多焦点が優る。ただし、すべてに優れているわけではない。

「3焦点レンズの場合は光を3分割して見るので、単焦点に比べると多少コントラストが落ちます。一点だけをクリアに見るという点では、やはり単焦点のほうが優れています」(同前)

 かつては多焦点レンズではハロー・グレアが起こりやすく、夜の運転に支障をきたすこともあった。最近は改良が進み、そうした問題点はほとんど解消されたと荒井医師は話す。

 ただ、まれにだが、見え方に満足がいかず、多焦点レンズを取り出して単焦点に入れ換えたりレーザーで度数を変更したりして、再調整が必要になる人もいるそうだ。それだけに、メリット・デメリットの説明を医師から受けて、納得した上でレンズを選んだほうがいいだろう。

 老眼や白内障が進んでも、がんのように命が奪われるわけではない。そのせいか、気楽に手術を受けに来る人も多いという。しかし、眼の手術で問題が出たときには、心身に異常をきたし、深刻な状態になることもある。

「眼鏡をかけてあまり不自由がないのに、『眼を治してみようか』という軽い気持ちで手術を受けると、痛い目に遭うことがあります。体の一部にメスを入れる以上は、それなりの心がまえを持って手術に臨むことが大切です」(同前)

 快適な老後を過ごすためにも、適切な知識をもって、老眼と向き合ってほしい。

 

source : 週刊文春 2021年5月6日・13日号

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