『ブラッシュアップライフ』初回を見て「なんだこりゃ」となった。車に轢かれて死んだ市役所職員の安藤サクラが「死後の世界の受付係」のところで「オオアリクイに生まれ変わるか、同じ人間に再度生まれ変わって徳を積んでもっといいものに生まれ変わるか」と問われて「生まれ変わって生き直し」を選ぶ。それで、自分の知ってる「幼稚園の友達の親の不倫離婚」「中学の教師が痴漢冤罪で免職」なんかを事前に阻止する=小さな徳を積むというドラマなんですが……いわゆるタイムリープものって、「過去を変えることによって現在が変わること」にものすごい葛藤があったり罠があったりするもんじゃないですか。しかしここにそんな葛藤はない。そもそも生まれ変わった瞬間からすでに前世の意識がある。え、ありなのかそういうの。

 ここでひっかかって見るのやめようかと思ったんだけど、安藤サクラがやけにイキイキしてるのでつい続けて見てしまい、ということは「見続けさせる力」はあるんだ。いったい何なんだと考えてみたらこれは、「ものすごく手のかかったバラエティのトーク&再現VTR」なのではないか。

安藤サクラ ©文藝春秋

 今、40ぐらいの人たちが「子供の頃のネタ」とか大学時代にあんなことしたとかこんなバカやったとか、そういうバラエティのトークってあるでしょう。昔はメロンの入れ物に入ったメロンアイスあったよねーあったあった、みたいなぬるい話題で盛りあがってるトーク。スタジオのタレントが手を叩いてウケたりする。

「聞き飽きたようなぬるい身近ネタ使い回して恥ずかしくねえのか」と言いたくなるが、『ブラッシュアップライフ』の内容って、基本そういうものだ。近未来、ではなくて近過去(なんて言葉はない)の笑える思い出にひたる楽しさ。世代の面白話、というのは確実にあるもので、久々に会った友達と「あの頃の話題」で盛り上がったりするでしょう。そういうものを、バラエティの安易なノリじゃなくて、「キッチリつくったドラマで、そういう様を見せて共感を得る」のが『ブラッシュアップライフ』なのだ。生まれ直して徳を積む、のは「そのためのムリヤリな膳立て」にしかすぎないから「積む徳がしょぼい」とか言うのは無意味。

「たいしたことも起きない近過去」を、誰だかわからない「みんな」と共有して楽しむひととき。はっきりいって私自身は暗い青春時代でこのドラマで再現される近過去は何一つ経験もなけりゃ共感もない。それでも「あったあったこんなこと」と思ってしまう。なんならテレビ局で下積みしてた記憶まで捏造して、楽しかったなーと笑う。

 しかしそれにしても安藤サクラはうまいな。あと木南晴夏の「女ともだち感」。キャスティングの勝利。

『ブラッシュアップライフ』
日本テレビ系 日 22:30~
https://www.ntv.co.jp/brushup-life/

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source : 週刊文春 2023年2月23日号