『舞いあがれ!』はエロい。

 NHK朝の連続テレビ小説にエロ場面が出てくるわけはない。なのにエロい。

 今はネットでヘアどころか中身まで見られる時代である。そんな時代だからこそ『舞いあがれ!』の「エロ場面皆無でありながらエロチックな場面」にドキドキしてしまう。

 たとえば。放映後に話題になった場面で、「厳しく冷徹な、航空学校の教官大河内(吉川晃司)」が、ソロ飛行訓練中、強風で窮地に陥ったヒロインの舞ちゃん(福原遥)を誘導するために訓練機で空に飛ぶ。そして無線で舞ちゃんに言うのだ、「岩倉学生、右を見ろ」「私が誘導する」。空中で舞ちゃんを導く大河内。無事着陸の後、教官のおかげです! という舞ちゃんに、「最後までやり遂げたのは、君自身だ」。

福原遥

 そもそも舞ちゃんは大河内教官のことを、厳しくて冷たくて理解できないでいたのに、厳しくも緻密な教育を受けるうちに、「この人はただ冷たいだけの人やない」と、心の中の氷が溶けかけてきた時の、その「空中誘導」である。

「大河内教官カッコよすぎ!」「惚れる」と騒然となり、「大河内教官の素晴らしさ」を表現した名場面ということになっている。

 しかしここはもっと踏み込んで考えたい。この場面は大河内教官の「空中での愛の告白」であり、教官と舞ちゃんの「空中の遠隔セックスシーン」なのではないか。だいたい大河内教官、最初からあの冷徹な態度は「ほんとは舞ちゃんにメロメロ」なのを隠しているいわゆるツンデレ態度であり、舞ちゃんは「まわりの人間をすべて堕とす(あえてこの漢字を使う)魔性の女」である。すべての登場人物は舞ちゃんのことしか考えられないのだ。朝ドラのヒロインなんて全員「誰にも愛される」キャラであるものだが、舞ちゃんのような「魔性の女」はいそうでいない。ホンモノの魔性の女とは、ああいう「性格の良さそうな、一歩退いてしまうやさしい女」なんだよと言いたい。

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source : 週刊文春 2023年3月16日号