カメラはその一部始終を収めていた。コンサート終盤のアンコール。笑い声が絶えず、穏やかな会場の空気を一変させたのは、「世界の日野」が放ったビンタだった。教育委員会の肝煎りイベントで発生した「体罰」問題。ご本人は「これがジャズ」と仰るのだが……。
◆ ◆ ◆
ドラマーの髪を鷲づかみにして……
コンサートの本番中、黒いTシャツを着た男性が突然、舞台の中程にいたドラム奏者に歩み寄っていく。男は演奏中のドラマーからスティックを奪い取り、舞台の袖に向かって乱暴に放り投げると、ドラマーをこう一喝した。
「馬鹿野郎!」
演出と勘違いしたのか、観客から笑い声も漏れたが、壇上にいたバンドメンバーや観客が異変に気付くと、会場は一斉に凍りついた。次の瞬間、男がドラマーの髪を鷲づかみにし、力強く前後に引っ張り回し、往復ビンタに及んだのである。
この黒いTシャツの男性は、世界的トランペッターの日野皓正(てるまさ)氏(74)。そして日野氏に“体罰”を加えられたドラマーは、東京・世田谷区内に住む男子中学生A君である。
事件が起きたのは、8月20日、「世田谷パブリックシアター」で行われた公演「日野皓正 presents “Jazz for Kids”」でのことだった。
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source : 週刊文春 2017年9月7日号