よしながふみは、テレビドラマ制作者の能力をブーストさせる。『きのう何食べた?』と『大奥』を見るとそう思う。
『きのう~』の衝撃は「マンガの再現」ではなく「これが本体だ」と思わせたことだ。原作もののドラマは「再現」に気をとられて、「似せようとして」失敗するのだ。以前、白洲次郎がドラマになった時「白洲正子をやらせるなら中谷美紀がいい。見た目の雰囲気そっくり」と思っていたその中谷美紀が正子役で身を乗り出したら、「表面ばかり似せて満足してる」ので落胆した。似てたらいいってもんじゃないのか……。
『きのう~』は、西島秀俊と内野聖陽の主人公コンビがぴったりだったが、それは「似てた」からではなく(似てたけど)「本人」だったというぐらいの完成度。「ゲイ仲間の小日向さん」なんかマンガとドラマじゃ見た目別人ですが、ちゃんと小日向さんだったし。これは、このマンガの「キモ」が何なのかわかってるからできることだ。って簡単に言ってるがそのキモを把握するのが難しいんだ。キモってのは形になってないし目にも見えない。そしてキモがあれば別の表現方法でも生きていける。
『大奥』は、徳川将軍が女で「大奥に仕える者」が男ばかりという世界で、『きのう~』よりも一見簡単である。カネはかかるが、大奥のセットと扮装で見た目は「やった感」が出るし、歴史を知ってても知らなくても「ああー、そういうことか! そうくるか!」と驚く(&納得&感動する)ストーリーが完成してるので、それをなぞればそれ風のものができそうだ。しかしそれこそが「罠」じゃなかろうか。表面を安易になぞった『大奥』なんか悲惨なことになるのでは……と思ったら、あなた。
いろいろびっくりしたが、仲里依紗演じる徳川綱吉に驚愕させられた。最初にキャスト聞いて「ええー? なんか違くね?」と思ったのに、そこにいるのはマンガの綱吉そのもの。可愛くて賢いが将軍として生きることに倦んで少しイッちゃってる綱吉が、生身でそこに現れたから驚いた。マンガを超えていた……というよりこっちがホンモノ。
完璧に『大奥』のキモがわかっている。
キモを見極め、ドラマとして再構築する方法論は確立されていない。だから世の中に「原作モノの残念ドラマ」があふれるわけだが、『きのう~』と『大奥』の成功を見て思いつく理由としては「よしながふみはドラマ制作者をその気にさせる」ぐらいしかない。
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source : 週刊文春 2023年4月6日号