久しぶりに感激した。喫茶店でアメリカンを受け取るとき、女店員から「もし濃すぎるようなら、遠慮なくおっしゃってくださいね」といたわるようにやさしく言われたのだ。薄くするには湯を足すだけでいいのだが、胸に大きく響いた。
「それぐらいのことで大げさだ」と思うかもしれないが、それほどやさしさに飢えているのだ。思えば中年のころから世間の風が冷たくなり、いつしか秋風が木枯らしに変わり、いまでは自分でも社会の邪魔者としか思えなくなっている。相手にしてくれる人もいない。たまに近づく者がいたら、オレオレ詐欺か強盗だ。だから店員のやさしさは、わたしにとっては干天の慈雨だった。
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source : 週刊文春 2023年4月20日号